学食
翌朝。
太一は久々に清々しい気分で目覚めた。
「あー、よく寝た!」
全身に昨日の疲労は残っているものの、気持ちは妙に軽い。
ステータスを上げた効果か、それとも単にクエストクリアの達成感からか――。
「よーし、今日は学食で日替わりランチを食べて、楽勝でステータスポイントを稼ぐぞ!」
勢いよくベッドから飛び起き、太一は朝の支度を始めた。
学校に着くと、授業はいつも通り退屈そのものだった。
先生の話もほとんど頭に入ってこない。
それもそのはず。太一の意識は、すでに昼休みに向いていた。
「学食でランチを食べるだけで、またポイントゲット……!」
もはや簡単すぎて申し訳ないほどだ。
「ふっ……楽勝すぎるな、俺のステータスアップ生活!」
授業終了のチャイムが鳴るやいなや、太一は勢いよく席を立った。
「さて、行くか!」
学食は校舎の1階にある。
普段はそこまで意識することもなかったが、今日は特別だ。
「ただ食べるだけでいいんだ。こんな簡単なクエスト、逃すわけにはいかない!」
意気揚々と廊下を歩いていると、見知った顔の友人が声をかけてきた。
「おーい、太一! 今日も昼飯、購買か?」
声の主は矢崎。太一の数少ない友人であり、いわゆる“普通の高校生”だ。
「いや、今日は学食で日替わりランチ食うわ!」
「は? どうしたんだよ急に。」
普段、太一は購買の菓子パンで済ませることが多かった。
そんな彼が学食に行くと言うのは、確かに珍しい。
「まぁ、たまにはいいかなーって思ってさ!」
適当に誤魔化しながら、矢崎と並んで学食へ向かう。
だが、学食の扉を開いた瞬間――太一は目を疑った。
「……な、なんだこれ?」
そこはまるで戦場だった。
学生たちが殺到し、列は店の外まで続いている。
食券機の前ではもみくちゃになりながらボタンを連打する生徒たち。
「くそっ、カツ丼売り切れか!」
「誰だ! 俺のカレーを横取りしたのは!?」
殺気立った昼休みの学食。
太一は改めて思い知った。
「これが……学生の昼飯戦争か……!」
――そう。
この学校の学食は安くて量も多いため、常に大混雑することで有名だったのだ。
「簡単なクエストだと思った俺が甘かった……!」
「おい、太一。どうする?」
矢崎が不安そうに尋ねる。
「どうするって……俺は行くしかないだろ!」
後には引けない。
食券機にたどり着き、日替わりランチのボタンを探す。
だが、そこには無情にも**「売り切れ」**の文字が表示されていた。
「う、嘘だろ……!?」
――ピロン!
突然、脳内に電子音が響いた。
⸻
《追加条件発生!》
•クエスト名:ラッキーランチ
•内容:学食で「日替わりランチ」を注文する
•条件変更:売り切れの場合、他の学生からランチを譲り受けることでも可
•報酬:ステータスポイント +1
⸻
「……は?」
譲り受ける?
そんなこと、どうやって――
「あっ!!」
視線の先に、日替わりランチを手にした同級生の姿が見えた。
彼はどこか浮かない顔で、トレーを持ったまま座席を探している。
「もしかして、食べきれないのか?」
チャンスは今しかない。
意を決した太一は、その同級生に声をかけた。
「あ、あのさ……それ、もし良かったら俺に譲ってくれない?」
「え?」
驚いた顔を見せる彼。
「いや、その……もし食べきれなさそうなら、俺が代わりに食べるよ!」
「あー……実は朝飯食いすぎて、ちょっとキツいと思ってたんだよな。」
幸いなことに、彼は納得してくれたようだ。
「じゃあ、頼むわ。」
「サンキュー!!」
⸻
クエスト達成!
トレーを受け取り、学食の席に着いた太一。
目の前には、揚げたての唐揚げ、ふわふわの卵焼き、味噌汁付きの豪華な日替わりランチが並ぶ。
「うっ、うまそう……!」
――ピロン!
⸻
《クエスト達成!》
•報酬:ステータスポイント +1
⸻
「よしっ!」
無事にステータスポイントを獲得した太一は、満面の笑みを浮かべながら箸を手に取った。
「ステータスアップ生活、最高じゃねぇか!!」