ステータス割り振り
「はぁ……はぁ……」
全身に広がる倦怠感。肺は焼けるように熱く、太腿の筋肉は張り詰めたままピクリとも動かない。
ベンチに座り込んだ太一は、空を見上げながら呆然と息を整えていた。
――ピロン!
そのとき、例の電子音が頭の中に響いた。
「……きた!」
視界に浮かぶ半透明のステータス画面。そこには、先ほどのクエスト完了を告げるメッセージが表示されている。
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《クエスト達成!》
•報酬:ステータスポイント +1
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たった1ポイント。
それでも、今の太一にとっては宝石のように輝いて見えた。
「ステータスポイント……! これがあれば、俺は……!」
あの貧弱なステータスを、ついに改善できる。
そう思うと、自然と笑みがこぼれた。
「どうしたんですか?」
隣に座る彼女が、不思議そうに首をかしげる。
「あ、いや……なんでもないです!」
ステータス画面はどうやら彼にしか見えないらしい。
正体不明のシステムを説明するわけにもいかず、太一は慌てて誤魔化した。
家に帰った太一は、すぐにベッドに寝転び、再びステータス画面を呼び出した。
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【ステータス】
•名前:佐藤 太一
•レベル:1
•体力:5
•筋力:3
•俊敏性:2
•知力:1
•魅力:0
•ステータスポイント:1
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「さて、どこに振るか……」
考え込む太一。
筋力に振れば、運動が楽になるかもしれない。
俊敏性を上げれば、もっと素早く動けるようになるだろう。
「でも、今一番キツかったのは、やっぱり体力だよな……」
5キロ走ることがこれほどまでに辛いとは思わなかった。
「体力を上げて、まともに運動できる身体にしないと……!」
決意を固めると同時に、彼は画面の**「体力」**の項目に意識を集中させた。
――ステータスポイントを1消費しますか?
「はい!」
そう心の中で答えると、画面がふっと光り、体力の数値が変化した。
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【ステータス】
•体力:5 → 6
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「……たった1か。」
正直、拍子抜けだった。
だが、妙に身体が軽くなったような感覚がある。
「たった1の差でも、ちゃんと効果があるのか?」
興味が湧いてきた太一は、部屋の中で軽く屈伸してみた。
「お、なんか調子いいかも……?」
次第に調子に乗り、ジャンプしてみたり、その場で足踏みしてみたりと動き回る。
「うん、悪くない! ……いや、むしろすごくいいぞ!」
まるで身体の中に新しいエネルギーが流れ込んだようだった。
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次なるクエスト
――ピロン!
突然、再びステータス画面に新たな通知が表示された。
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《新たなクエストが発生しました!》
•クエスト名:ラッキーランチ
•内容:学食で「日替わりランチ」を注文する
•報酬:ステータスポイント +1
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「……学食?」
なんてことない、ただの昼飯を食べるだけのクエストだ。
「いや、これ……めっちゃ楽勝じゃね?」
先ほどのジョギングとは比べ物にならないほど簡単そうに思えた。
「よーし、明日は学校の学食で日替わりランチを食って、楽々ポイントゲットだ!」
そう決意し、太一は満足げに布団をかぶった。
明日からの人生は、少しだけ明るくなるかもしれない。