ランニング
第18話:太一、1キロメートルの地獄ランニング!
放課後、校門を出た太一は大きく伸びをした。
「よし……やるか!」
クエストの内容は**「1キロメートル走る」**。
体力6、筋力4、俊敏性3という今のステータスなら、かつてのように数十メートルで息が上がることはないはずだ。
しかし、太一は気づいていない。
体力6がどれほどのものか、そして筋力4の意味を。
⸻
走り出す太一
スタート地点は学校前の横断歩道。そこから商店街を抜け、駅前までの道のりがちょうど1キロほどだ。
「いくぞっ!」
深呼吸を一つし、太一は地面を蹴った。
──ドンッ!
その瞬間、目の前の景色が一気に流れ始める。
「うおおおおっ!? は、速ええええ!!」
体感速度がこれまでとはまるで違う。
俊敏性3とはいえ、かつての1から比べればまさに異次元。
「すげぇ……これが俊敏性3の力か!」
太一の顔は思わず笑みに変わる。
だが、喜びも束の間。
「ん? なんか……足、重くね?」
そう、筋力4の影響だった。
筋力が強化されたことで、太一の一歩一歩にとんでもない力が乗っていた。
通常なら軽快に走れるはずの速度が、逆に筋力の過剰な出力によってコントロール不能になっていたのだ。
「ヤ、ヤベェェェッ!」
まるで暴走列車。
止まろうとしても止まれない。
自転車を追い抜き、犬の散歩中のおばあさんを避けながら、太一はひたすらに走り続けた。
⸻
地獄の始まり
「こ、これ……マジで……きつ……!」
体力6とはいえ、無尽蔵ではない。
むしろ、筋力と俊敏性の向上により、消費されるスタミナも急激に増加していた。
呼吸は乱れ、視界も徐々に揺らぎ始める。
「あと……あとどれくらい……?」
スマホの距離測定アプリをチラリと確認すると、まだ600メートル。
「うそだろ……? まだ半分も行ってねぇじゃん!」
しかし、ここで立ち止まればクエストは未達成。
報酬のステータスポイントも手に入らない。
「絶対に……やり切ってやる!!」
太一は歯を食いしばり、再び足を前に出した。
だが次の瞬間。
ガッ!
足元の段差に躓いた。
普通なら軽くよろける程度で済むはずだった。
だが、筋力4という桁外れのパワーが生み出した勢いは、簡単には止まらない。
「う、うわあああああ!!」
重力に逆らえず、太一はそのまま前方にダイブした。
──ドシャァン!!
地面に転がる太一。
周囲の通行人たちが心配そうに駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ……なんとか……」
擦り傷だらけの手と膝をさすりながら、太一は震える声で答えた。
しかし、内心は絶望だった。
「も、もうダメだ……これ以上走るのは無理……」
それでも、ふと浮かんできたのは翔太の笑顔だった。
「まさか桜井さんと話せる日が来るなんてさ。」
翔太は努力した。だから、桜井美咲と話すことができた。
ならば自分は?
「ここで諦めたら……何も変わらねぇじゃねぇか……!」
太一は震える足を無理やり立たせる。
息は切れ、身体は鉛のように重い。
それでも──
「ラスト……400メートル……!」
足を引きずるようにして、太一は再び走り出した。
そして、ついに駅前のゴール地点が見えた。
最後の力を振り絞り、太一は両腕を広げて飛び込むようにゴールする。
⸻
《ピロン!》
⸻
《クエストクリア!》
•目標:1キロメートル走る
•達成度:100%
報酬:ステータスポイント +1
⸻
太一はその場に崩れ落ちた。
「ぜぇ……ぜぇ……や、やった……」
全身汗だくで、意識は朦朧としていた。
それでも、確かにクエストは達成されたのだ。
「これで……ステータスポイント……ゲットだ……」
太一の顔に、満足げな笑みが浮かぶ。