嫉妬
図書室を出た太一と翔太は、校舎の渡り廊下を歩いていた。
昼休みはまだ終わっていないが、太一はすでに全身がぐったりとした疲労感に包まれていた。
緊張のあまり、背中には汗が滲み、制服がぴったりと張り付いている。
それでも、彼の胸には確かな達成感があった。
「ふぅ……終わった……」
呟く太一の横で、翔太は呆然とした表情を浮かべていた。
「な、なぁ太一……お前、今普通に会話してたよな?」
「……まぁ、なんとか、な。」
正直、何度も逃げ出したくなった。
だが、知力2の自分にできる限りの知恵を振り絞り、桜井美咲との会話を成立させたのだ。
それだけでも、自分としては奇跡に近い。
「すげぇよ、太一……まさかお前があんな風に堂々と話せるなんて……」
翔太の目には、少しだけ尊敬の色が浮かんでいた。
──しかし。
その尊敬の色は、次第に違う感情へと変わっていった。
「……なぁ太一。」
翔太はどこかふて腐れた声で言った。
「お前、もしかして桜井さんに気に入られてねぇか?」
「はぁ!?」
太一は慌てて首を横に振る。
「そ、そんなわけねぇだろ! 俺みたいなバカが、あんな完璧超人に気に入られるなんてありえねぇよ!」
そう、自分が一番よく分かっている。
知力2になったとはいえ、太一は未だに運動神経も悪ければ、勉強も得意とは言えない。
桜井美咲のような存在とは、まるで釣り合わないのだ。
──だが。
翔太の不安は簡単には晴れなかった。
「でもよ……桜井さん、最後にお前の名前を聞いてきたじゃねぇか。普通、そんなことしねぇだろ。」
「た、たまたまだって! ほら、俺のことを変なヤツだと思って覚えたかっただけだよ!」
「……それならいいけどよ。」
翔太はまだ何か言いたげだったが、これ以上突っ込むのはやめたようだった。
太一はふと、視界に浮かぶステータス画面を確認することにした。
⸻
《クエスト進行中!》
《恋のキューピッドになれ!》
•現在の進行度:25%
•目標:翔太と桜井美咲の距離を縮めろ!
•次のステップ:翔太に桜井美咲との接点を作らせる。
報酬:ステータスポイント +1
⸻
「……25%か。」
思ったよりも進んでいる。
やはり桜井美咲との直接の会話が大きく影響したのだろう。
とはいえ、クエスト達成まではまだ道のりは長い。
次のステップは「翔太に桜井美咲との接点を作らせる」。
つまり、翔太自身が桜井美咲と話すきっかけを作らなければならない。
「うーん……どうしたもんか……」
知力2の脳をフル回転させて考えるが、妙案は浮かばない。
そんな太一の様子を見ながら、翔太は拳を握りしめた。
「なぁ、太一。」
「ん?」
「俺、次は自分で桜井さんに話しかけてみるよ。」
太一は思わず目を見開いた。
「マジか!? お前、大丈夫なのか?」
「正直、怖い。でも、このままじゃ何も変わらねぇ。」
翔太の目には、確かな覚悟が宿っていた。
「俺も、太一みたいに頑張ってみるよ。」
その言葉に、太一は心の中でガッツポーズを決めた。
──これで、次のステップに進めるはずだ。
⸻
クエスト進行度アップ!
《ピロン!》
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《クエスト進行中!》
•現在の進行度:35%
次のステップ:翔太が桜井美咲に話しかける場をセッティングしろ!
報酬:ステータスポイント +1
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太一は大きく頷いた。
「よし、任せとけ! 次はお前の背中を全力で押してやるからな!」
翔太は不安げに笑いながらも、しっかりと頷いた。
──こうして、次なる作戦が始まるのだった。