恋のキューピッド
翌朝。
太一は昨日より少しだけ晴れやかな気持ちで登校していた。
「知力2の俺なら、今日の授業も少しはマシになるはず……」
知力1の頃に比べると、頭が妙にスッキリしている。
道端の看板やポスターの内容が一瞬で理解できるし、通学路で見かける標識の意味も、今まで以上にスラスラと頭に入ってきた。
「まるで世界が一段階、クリアに見えるようだ……!」
だが、その感動も束の間。
学校の門をくぐった瞬間、目の前に青白い画面が浮かび上がった。
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新たなクエスト発生!
《恋のキューピッドになれ!》
•クラスメイトの恋を応援し、見事成功に導け!
•失敗するとステータスポイント没収の可能性あり!
報酬:ステータスポイント +1
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「は?」
太一は思わず立ち止まった。
「恋のキューピッド!? 何それ!? そんな高度なこと俺にできるわけ……」
いや、待て。
確かに知力は1から2に上がった。
しかし、それでもなお恋愛相談に乗るほどの賢者には程遠い。
「……頼むから、せめてもうちょっと簡単なクエストにしてくれよ……」
そう思っても、クエスト画面は消えない。
ため息をつきながら靴箱に向かうと、目の前に見慣れた顔があった。
「おはよう、太一!」
元気よく声をかけてきたのは、幼馴染の中村翔太だった。
サッカー部所属で、クラスでも人気者。
長身に短髪、爽やかな笑顔が特徴的で、女子からの評判も上々。
「お前、今日なんか顔色いいな。良いことでもあったか?」
「うーん、まあな……。ちょっとだけ頭が冴えてる気がするっていうか……」
「ほぉ?」
翔太がニヤリと笑う。
「それじゃあ、俺の悩みでも聞いてくれるか?」
「へ?」
翔太は周囲を見渡してから、声を潜めた。
「実はさ……好きな子がいるんだよ。」
「は!? お前が!?」
サッカー部のエースでモテモテの翔太が、わざわざ相談するような恋愛事情があるとは思わなかった。
「で、でも、お前ならすぐ付き合えるんじゃねーの?」
「いや、それが……相手がちょっと特殊でさ。」
翔太が苦笑いを浮かべる。
「桜井美咲って知ってるだろ?」
「桜井……美咲……」
その名前を聞いた途端、太一の脳内に彼女の姿が浮かんだ。
桜井美咲。
成績優秀、運動神経抜群。
長い黒髪に整った顔立ち、そして凛とした雰囲気を持つ完璧な才女だ。
「桜井さんって、すげぇ美人だし、結構有名だよな。」
「ああ。でも、そういうタイプだからこそ、俺もなかなか声をかけられなくてさ。」
翔太が頭を掻きながら言った。
「だから、太一。お前、俺の恋のキューピッドになってくれよ!」
「ええええええ!?」
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選択肢発生!
•1. なんとかして翔太を応援する
•2. うまく断る
•3. 自分の恋愛相談にすり替える(ない)
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「くそっ、どうする……?」
クエストをクリアしなければ、ステータスポイントは得られない。
しかも失敗すれば没収の可能性すらある。
知力2に上がったとはいえ、未だモテとは無縁の太一。
果たしてこの難題に立ち向かえるのか!?