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ステータス画面



 朝の光が薄暗い部屋の隙間から差し込み、埃の舞う空気を照らしていた。壁掛けのカーテンは半分だけ閉じられ、無造作に散らばった服や雑誌が床を埋め尽くしている。


 その中心にあるベッドには、寝返りを打つ一人の青年――佐藤太一がいた。


 「うーん……もうちょい……あと10分……」


 ぼさぼさの黒髪を枕に押し付けながら、太一は薄く開けた目を閉じ直した。寝起きの悪さには定評がある彼だが、今日は特に酷い。昨日の夜、動画サイトを巡りながらゲーム実況を見続けたせいだ。


 しかし、そんな怠惰な朝は突如として破られた。


 ――ピロン!


 耳元に響く甲高い音。電子音のようにも、通知音のようにも聞こえたが、スマホを手にしていないことに気づき、太一はようやく目を覚ました。


 「……は?」


 彼の視界に映ったのは、見慣れぬステータス画面だった。



【ステータス】

•名前:佐藤 太一

•年齢:18歳

•レベル:1

•体力:5

•筋力:3

•俊敏性:2

•知力:1

•魅力:0



 「はあ!? なんだよこれ!!」


 太一は慌てて布団を跳ね飛ばし、ステータス画面を凝視した。薄く青白い光を放つその画面は、どこかのゲームで見たことがあるような、まさにRPGのような形式だった。


 「ちょっと待てよ。俺、レベル1って……いや、まあそれはいいとして……知力1!? ふざけんな!」


 怒りの声が部屋に響く。だが画面に変化はなく、冷徹に彼の無様な数値を表示し続けている。


 「いや、そもそもこれって夢か? 俺、寝ぼけてんのか?」


 自分の頬を軽くつねってみるが、痛みが走っただけで特に変化はない。


 「……マジかよ。これ、本物?」


 まだ半信半疑のまま、太一は画面の次の項目に視線を移した。



【クエスト】

•朝のランニング中の女の子をナンパせよ!(5km走る)

 → 報酬:ステータスポイント +1


 「……は?」


 思わず二度見した。いや、三度見した。それでも文字は変わらない。


 「ナンパしろって? 何の罰ゲームだよ!」


 しかも報酬はステータスポイント1。1だ。たったの1。


 「こんなことしてポイント1かよ……いやいや、それ以前に、俺にナンパなんてできるわけねぇだろ!」


 太一は己の鏡を見て愕然とした。覇気のない顔、ボサボサの黒髪、皺だらけのTシャツに短パン。どう見ても社会不適合者である。


 「くそっ……でも、これ無視したらどうなるんだ?」


 再び画面を睨みつけるが、ペナルティについては一切書かれていない。


 「まあ……やるしかないか」


 意を決した太一は、部屋の隅に転がっていたスニーカーを引っ張り出した。埃っぽい靴を叩きながら、心の中で自分を奮い立たせる。


 「よし……いける。多分、いける……はず。」




 太一は住宅街を抜け、近所の公園へと向かった。朝の澄んだ空気の中、ジョギングをする人々がちらほらと見える。


 「うわぁ……リア充の巣窟じゃん……」


 彼は怯えたように目を泳がせながら、公園の入口に立った。そこには噴水を中心に整備された広場が広がっており、木々の隙間から柔らかな陽光が差し込んでいる。


 「さあて、どの女の子をナンパするってんだ……って、マジでやるのか俺?」


 震える手を抑えつつ、視線を泳がせる太一。そんな彼の前を、一人の女性が颯爽と駆け抜けていった。


 「……あれか?」


 ポニーテールを揺らしながら走る彼女は、引き締まった体つきにスポーツウェアを纏い、いかにも運動を日課にしている風だった。


 「いや、待て待て待て! こんな人に声かけたら、警察呼ばれるだろ!」


 しかし画面は容赦なく表示されたままだ。


 《クエスト進行中》


 太一は震える唇を噛み締めた。


 「やるしかねぇ……!」


 意を決した彼は、重い足を引きずりながら、少女の背後へと走り出した。



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