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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

溶けるを解く

作者: 福岡 海

「今日はいい天気だ。気持ちよく日向ぼっこができそうだな。」


病院エリアの広い階段を降りていた時、背後にいた一人の女性看護師が突如として身体を硬直させ、激しい痙攣を起こした。階段を下る途中で後ろに仰け反るように倒れたその身体は急速に青白く変色し、唇が血の気を失っていく。


「大丈夫ですか!?」


周りの医療スタッフが駆け寄る。しかし、次の瞬間、彼女の目の輪郭が溶け始めた。

眼球が半透明の液体と化し、やがて目の周りの皮膚も粘度の高い液体となる。


「……目が……ない……」


口を動かそうとしたが、一人の人間が一瞬にして原形をとどめない液状になるという異常事態を前にあたりは静まり返った。


「え、、、、、。なんだ、、、これは。」


溶けだした彼女は小さくなり、それは突如として黒い液状の塊となり、として宙に舞った。


悲鳴が病院中に響き渡る。


病院の中は騒然となった。


「これは、、、、ウイルスではないな、、。何が起こった、、?」






都市部でも同様の現象が発生し始めた。


監視カメラに映る街の映像は、混乱そのものだった。道路を歩いていた人々が突然痙攣し、膝をついたかと思うと、皮膚が波打つように液状化し始める。


「逃げろ!」


その声もむなしく、彼らは数秒後には黒い液体と化し、宙を舞った。







特殊研究機関であるSOUでは、この世間の様子を静かに見つめていた。


「なんだろうなぁぁ、これ。」

白木がおにぎりを片手に呟く。


「なんですかね~、これ。」

PCに向かっている多田も他人事のように呟いた。


「まぁ、この原因を解明するように依頼がきていないのも怪しいけどなぁぁ、、、はぁぁぁ。」


「これ、こないだうっすら情報が入ってきてたナノロボットっぽくないっすか?」

振り向くと寝ていたはずの猫田がソファーの上で欠伸をしていた。


「あ~、飯田さんが持ってきてた情報?地下で謎の組織が秘密裏に開発してるって噂の自己増殖するナノロボットが開発されてる~~みたいな?なんか言ってたね~。あの人、地下やら、謎の組織やら、なんだかそういう怪しい感じが好きだよね~」


「ナノロボットぉ?」


「白木さん、知らないっすか?めちゃめちゃ小さいロボットですよ。血管の中とかに入って病気を見つけたりとか、患部に薬を届けるナノロボットとか、ほんとにnm単位のちっちゃいロボットです。」


「白木さんは武力に特化しちゃってますからね~。先日、飯田さんが噂してきたナノロボットは、自己増殖、自己修復、分解機能が搭載されてるって言ってましたね~。開発の目的は、海洋のマイクロプラスチックを除去するためだったらしいですが、いつの間にか負傷した兵士の身体を自己修復できるようにするだとか、自走して動けるようにナノロボットにAIを搭載するだとか、色んな曲折があったらしいですけどね、、、もし今回のこの流体になる原因がナノロボットだとしたら、かなり面倒ですね~。」


「そのナノロボットというのはウイルスとは違うのか?」


「違いますね~。ナノロボットは人工物、つまり、機械なので外部からの制御であったりプログラムに基づいて行動します。まぁ、AIを組み込んだナノシステムなので自走できるようになる未来もあるのかな~。現状、そんなナノロボットを見たことがないので何とも言えませんが。一方で、ウイルスは生命体です。宿主細胞からエネルギーを供給しますし、遺伝情報を持つので突然変異を起こしたりもして環境の変化に適応して進化していきます。」


「この世間で起こってる液状化の現象がウイルスの場合は考えにくいと思ってるんすよね。基本的にウイルスって宿主を殺しすぎると自分も生きていけないので進化しずらいんですよ。だから即時に分解するタイプのウイルスは考えにくいっす。あと、老若男女、同じような溶け方をしてるじゃないっすか。ウイルスなら免疫の状態だったり、溶け方にも個体差が出てきそうなんですよね。でも、これはその個体差はない。一律に同じ順序で溶けていってる。」


「なるほど、、よくわからんが、もしこれがそのナノロボットだとして、この現状を食い止める方法は?」


「うーん、そもそも、どうやって体内に入ってるのか、よくわからないっすよね。黒い液体になった人たちの周りの人は何も発症してないわけでしょ?じゃー、ナノロボットは空気を移動してるとは考えにくいよねー?でもナノロボットの発動のトリガーもよくわからないからなぁー。」


「お、噂をしたら依頼がきたっすね。」

廊下の足音を聞いた猫田は笑いながら伸びをした。






「なになになになに?僕の噂をしてたの?」

飯田が大型のスーツケースを引きながらSOUの自動ドアから顔を覗かせた。


「その噂の飯田が噂の依頼を持ってきましたよっと。ぁぁごめんよ。このスーツケース、ちょっと重くてね。」

ローテーブルにスーツケースを載せる際にバランスを崩し、観葉植物に当たった。


「やっぱり、ナノロボットの件っすか?」


「おー、どこまでわかってる感じ?」


「そういえば、3人とも苗字に田がつくな。白木も白田になろうかな。」


「、、、、、その話の逸らし方、今月に入って3回目っすよ。そもそも自分、猫田も本名じゃないですし、そもそも猫田と多田に関しては白木さんが名付けたんじゃないっすか、、、」


「ん、話を逸らされた。ということはナノロボットかなぁくらいって感じ?」


「、、、、飯田さんのその言い方、嫌いっす。自分が情報を持ってるからって優位に立ちまわってる感。」


「、、、、、、」


「それで何ですか~?わざわざ防護服まで持ってここまで来るってことは結構な依頼なんでしょ?」


「おお、多田っちには持ち物までお見通しだね~。そうだよ。この日本中で人を分解しているナノロボットを無効化してほしい。」


「方法は?」


「わからない」


「仕組みは?」


「わからない」


「このナノロボットを作った組織は?」


「わからない」


「この現象を食い止めようとしてる組織は?」


「わからない」


「なんもわかんにじゃないっすか~」

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