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第92話:ライブハウスデビューその三

「メンバー紹介いっくよー。あ、まずはアタシたちなんだけどね、セクストグリントっていうんだよー。もともとはねー、クアッドグリントってバンドだったの。でもタケっちとマミちゃんが入って名前が変わったのー……なんでだろうね?」

「知るかー!」


 コテっと首を傾げた友子に、観客たちからは笑いと共にツッコミも飛んでいる。そんな友子の背中を千佳子が突いた。


「それはどうでもいいからメンバー紹介。それと愛称じゃなくて下の名前で紹介する」

「あ、そうだった。また忘れてた。じゃぁメンバー紹介いっくよー! 最初はねー、ドラムの雄二!」


 やっと始まったメンバー紹介に、雄二がソロのドラムテクを見せつけるようにして応えた。彼のドラミング技術は武夫がセクストグリントに加入したときより格段に上がっていて、ほぼ毎日続けられた効果的な練習が実を結んだ結果なのだろうと武夫は思っている。


 武夫が練習に参加するようになってキーボードやギターの効果的な練習方法伝授したり、それによって着々と実力をつけていく雅美や正彦を見ていた雄二は、自分で効果的な練習方法を試行錯誤することに腐心していた。


 さらに、おそろしくレベルが高い友子と武夫の実力に触れるにつれ、知らず知らずのうちに感化されたというか、必死になって合わせていくうちに雄二のレベルも吊り上げられていったようである。


 雄二のドラムソロが終わったが、彼はそのまま基本的なリズムでビートを刻み続けている。


「次はねー、ベースの正彦だよー!」


 正彦は雄二が叩くドラムをバックグラウンドに、渋いベーステクを披露していた。彼は武夫に習った指の動きの基礎練習とか、他にも自宅での基礎練習に励んでいたようで、おそらくはバンド内で一番の練習時間を誇っている。


 正彦は強がっているのか分からないが、努力していることを隠したがっているようだ。けれども指にできたタコの具合とかレベルの上がり方からも分かる通り、バンドメンバーには彼が努力家であることはバレバレであった。


 そんな正彦のベースソロが終わり、続けて友子が千佳子を紹介した。


「次はリズムギターのチカちゃんだよー。あ、間違えた、リズムギターの千佳子!」


 紹介された千佳子は、雄二のドラムに乗って基本的でありふれたリフを、恐ろしいまでの正確さで披露していた。もともと彼女には目立ちたいとかチヤホヤされたいとかの欲望がほとんど無いらしい。


 千佳子はとにかくギターを弾くことが好きなのだ。だから向上心が無いはずもなく、師匠と慕う武夫のアドバイスを素直に聞いて真面目に練習し続けた甲斐があって、その実力は着実に伸び続けている。


 ただ、感情を表に出すことがほとんど無いというか、彼女としては表に出しているらしいが、彼女の感情を表情や態度から察することは凄く難しい。だから上手く弾けてドヤっているにもかかわらず、誰にも気づいてもらえないことが何回もあったと、武夫は雅美から聞いていた。


 そんな千佳子のソロが終わって友子がマイクを構えた。


「次はキーボドの雅美だよー。今日歌う歌は全部マミちゃんが作詞してくれたんだー。すごいよねー。じゃぁマミちゃん、いってみよー!」


 紹介されてスポットライトに照らされた雅美は、うつむき気味にちょっと恥ずかしそうな顔をしている。そんな彼女に観客から声がかかった。


「雅美ちゃーん! ガンバレー!」


 まだ雅美は恥ずかしそうにしているが、顔を上げて観客席に軽く手を振った。そしてドラムのビートに合わせて鍵盤を叩く。もちろんアドリブ演奏だが、コード進行はオーソドックスで基本的なものだった。けれどもそれがいいと、武夫は彼女に惚れ直す。


 雅美は決して目立とうとせず、友子の歌声を引き立たせることを第一に考えているようだ。彼女の演奏技術は武夫のレッスンを受けるようになってかなり上達しているが、決して自己主張することなく自分の役割に徹している。


 武夫はそんな雅美のことが眩しくてたまらないのだ。彼には彼女がこう見えている。


――ああ、やっぱり雅美ちゃんは最高だ。優しく包み込んでくれるみたいに温かいし、この奥ゆかしさがたまらない。


 武夫の目や耳にはかなり分厚いフィルターが掛かっているのは疑いようがない事実だ。それを抜きにしても、彼女が友子の歌声やバンドの演奏を引き立たせようと頑張っていることはバンドメンバー誰しもが知るところとなっていた。


 そんな雅美の前で武夫が張り切るのは当然の成り行きである。


「次はタケっち! リードギターと編曲担当の武夫君だよー!」


 名前を呼ばれた武夫は雅美にいいところを見せようと、最初から全開で持てる技術のすべてを見せる勢いでギターを掻き鳴らしている。観客からは「武夫君ステキー!」とか声援が上がっているが、彼には聞こえていないし、雅美しか目に入っていない。


 武夫の恐ろしくテクニカルで高難易度な超絶技巧アドリブソロに、観客たちの盛り上がりは凄いことになっているが、彼の耳には入っておらず、雅美にカッコいいところを見せようと、スポットライトに照らされたステージの中央で演奏に集中するのだった。


 そんな武夫の演奏が終わると、いよいよ友子の自己紹介になる訳だが。


「タケっちカッコよかったよー。じゃぁ次は二曲目の紫陽花。聴いてくれるかなー!」

「ヴォーカルがまだだぞー!」

「自分のこと忘れてるぞー!」


 自分のことを忘れて二曲目に行こうとした友子に、すぐに観客たちからツッコミが入った。


「ゴメンゴメン、忘れてたよ。アタシはボーカルとたぶん作曲? ……担当の友子だよー。トモちゃんって呼んでねー! 次の曲は紫陽花だよー!」


 友子は自分が作曲している自覚がないのだろうか、「作曲?」のところでコテンと首を傾げて間を空けてしまったが、なにも無かったかのように二曲目の曲名を告げたのだった。

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100話到達記念SSを投稿しました。内容は雅美が父を亡くしてバンドに加入するまでの雅美視点でのスピンオフ短編です。

転校したらスパダリさんに出逢った

このリンクから飛べますので興味がおありの方はどうぞお読みください。
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