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第91話:ライブハウスデビューその二

 音響の確認が終わって武夫たちが配置につくと、ガヤガヤとしている観客たちの中から「武夫く~ん、雅美ちゃ~ん」という声援も聞こえてきたが、やがてそれも収まって静かになった。


――覚えてててくれた人、居るんだな。雅美ちゃんも嬉しそうに手振ってるし、良かった。


 武夫がそんなことを考えていると、手を振って笑顔を振りまいていた友子がマイクを構えた。


「セクストグリントだよー。アタシたちのデビューライブに来てくれてありがとー!」


 ちょっと力が抜けた感じがするいつもどおりの友子だった。まだセクストグリントがどんなバンドなのか把握していないであろう観客たちは、どう反応していいのか分からないような感じで戸惑っているようだった。


 そんなことはまったく気にしていない様子の友子は、動揺さえ見せずに言葉を続けようとしている。本来はこのタイミングで曲名を告げて演奏に入る予定だった。予定にはなかった行動だ。それを察知した正彦がすぐさまウィンクして雅美に合図を送っていた。


「今日のお昼ゴハンはとっても美味しかったんだよ。だからねー、今日はすっごく調子いいんだー。あ、それからね」


 そこまで友子が話したところで、雅美がいきなり『changing myself』のイントロを静かに奏ではじめた。もうみんな友子の扱いには慣れているのだ。


 友子は喋りを止めてキョトンとした顔でコテンと首を傾げて雅美を見ているが、雅美がサムズアップしてウィンクすると、ニカっと白い歯を見せ、なに事もなかったかのように口を開いた。


「changing myself、みんな聴いてね~」


 雅美が奏でる、爽やかな朝の目覚めを思わせるような静かでゆったりしたイントロに合わせて、友子が体を揺らしている。


 観客たちからは「オリジナル?」とか「聴いたことない」とか「コピーバンドじゃないぞ」とかの驚いたような声が聞こえてきた。初ライブの高校生バンドがいきなりオリジナル曲を披露するのは珍しいことなのだろう。


 イントロが終わってAメロに入るとすべての楽器が加わり、そして友子が歌いだした。


 すると友子の圧倒的な歌声に、観客たちが目を見開いている。イントロから明るい曲調に変ってテンポが少し上がったAメロでは、主旋律を歌う友子の歌声を強調するように、これからなにかが始まると期待感を膨らませるような副旋律を武夫が被せていった。


 Aメロが終わって転調し、Bメロの序盤はふたたびスローな進行に戻ったが、より静かな透き通った歌声で友子がさっそく観客を魅了している。


 Bメロの途中から再度転調して徐々にテンポとキーを上げていくのだが、友子の歌声に呼応するように楽器の音数も増えていってサビへの期待感を煽っている。


 そして歌声と楽器の音が止み、充分な間を開けから爆発的に楽器の音圧を上げた。それを凌駕するような友子の歌声が観客を圧倒し、サビの情熱的でキャッチーなメロディーを友子が歌い上げ、武夫はテクニカルな副旋律で彼女の歌声との掛け合いを演じ、盛り上げていく。


――やっぱり観客が入ったライブハウスは一味違うな。いつのまにか盛り上がってきてるし、友子も他のみんなもノリノリだ。


 そんなことを考えながら演奏している武夫であったが、観客たちの反応は激的で、ステージに詰め寄るような感じで手を振り上げながら盛り上がっている。


 大盛り上がりのサビが終わると、観客たちは絶叫しながらも余韻に浸っているようだった。


 そんななか、静かな間奏のメロディーを奏でながら武夫がステージの前方に出てきた。スポットライトが暗闇の中に彼を浮かび上がらせると観客たちは絶叫を止め、彼のテクニカルなギターサウンドに聴き入っている。


 ときおり観客席から「武夫く~ん!」とか声援が入り、武夫もそれに応えるようにアドリブの超絶技巧を織り交ぜて観客を沸かせていった。


 間奏が終わって曲は二番に入り、客も反応の仕方が分かったようで合いの手も入るようになって会場全体の盛り上がりは凄いことになっていた。


 とてもこれが新人の初ライブだとは思えないような一体感が会場を包み込み、武夫も他のメンバーもはじめての感覚に酔いしれるように演奏している。


 そして一曲目の演奏が終わると、観客席からは爆発したような歓声が沸き起こり、友子がマイクを振り上げてステージ上を行ったり来たりしながら声援に応えている。


「みんなアタシたちの曲はどうだったかなー!」


 友子の問いかけに、観客たちはひときわ大きな歓声をもって応えてくれた。


「ありがとー、じゃぁ次の曲行ってみようかー」


 友子がまた予定と違うことを言っている。ちょうど真後ろにいた千佳子がツンツンと友子の背中を指で突いた。友子が振り返る。


「次はメンバー紹介。忘れちゃダメってあれほど言ったのに」


 耳元でボソッと指摘された友子は悪びれる様子も見せず、観客に向き直ってマイクを構えた。


「あ、ゴメンゴメンみんなー。間違えちゃったよ。次はメンバー紹介なんだってー」


 観客席からは笑い声と共に友子をイジるようなヤジが飛んでいる。


――まぁ、掴みはOKってところかな。トモちゃんが憎めないのはみんな変わらないみたいだし。

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★★★★★ m(_ _)m

100話到達記念SSを投稿しました。内容は雅美が父を亡くしてバンドに加入するまでの雅美視点でのスピンオフ短編です。

転校したらスパダリさんに出逢った

このリンクから飛べますので興味がおありの方はどうぞお読みください。
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