第83話:ライブハウス出演決定
武夫たちが中学でバンドを組んで以来、熱心に行ってきたバンド練習が報われる日が近づいていた。もともと彼らのバンド「セクストグリント」は、四人だったころから雄二の実家であるライブハウスでの公演を目指していた。
マスターである雄二の父親に実力を認められなければライブハウスのステージに立つことはできないが、受験勉強をはじめる前の段階で実力的にはステージに立っても問題なしの評価を得られていた。
けれども年齢的なことや、受験勉強でのブランク、そして高校での勉強や宿題があって、ライブハウスデビューは果たせていなかった。
「去年より良くなったな。実力的にはまったく問題ないが、曲数が少ない。あと二~三曲増やしておけ」
一年の一学期も終盤に入って、日曜日の午前中にライブハウスで練習していた武夫たちにマスターはそう告げて奥に引っ込んだ。
「しゃぁ!」
ドラムセットの中でこぶしを握り締めて雄二が歓喜した。他のメンバーも各々喜びを噛みしめている。ライブハウスデビューが決まったからだ。
ただし、マスターからは勉強をおろそかにしないようにと、準備ができていたとしても出演は夏休みか冬休みに入ってからだと前々から言われていた。
高校生にはチケット販売のノルマもないし、出演も前座的役割しか与えられない。それでも演奏時間は三十分あるわけで、今の持ち曲四曲では少々曲数が足りなかった。
MCのマイクパフォーマンスで時間を埋め合わせることもできるが、MCを任せるだろう友子が何をやらかすか想像もできない。だからマスターが言ったように、あと二~三曲は増やしておかないと困ったことになるかもしれないと、友子を除く全員が思っていることは確認済みだ。
「よ~し、作曲するよー」
嬉しそうにそう言った友子は、作詞担当の雅美を期待感一杯のキラキラした瞳で見つめていた。当の雅美はちょっと照れたような顔をしているが、その瞳は輝いている。
まだ中一のとき、友子と協力し合って一曲目を作詞したときにはかなり手間取っていた様子だったが、二曲目、三曲目、四曲目と作詞を重ねるうちに才能が開花したのか、すごく楽しそうに雅美は作詞をするようになっていた。
雅美の作詞作業は友子とおしゃべりすることから始まる。作曲する友子がときめくなり、興味を抱かないかぎり、まともなメロディーが出てこないからだ。
「――山盛りパフェ美味しいよねぇ~」
「うんうん、美味しい美味しい。でもね、あそこのお店、高いのが玉に瑕だよね。トモちゃんは安くて美味しいお店知ってる?」
「もっちろん! いっぱいあるよ~」
雅美曰く、食べ物の話題から入るのが鉄板らしく、おしゃべりしているうちに話題がどんどん変わっていって、そこから友子の反応が良いキーワードを抜き出していくと、良い歌詞が思い浮かぶんだそうだ。
一曲目は作曲→編曲→作詞の順で曲が出来上がったが、二曲目以降は作詞→作曲→編曲の順で曲作りが進行し、すでに三曲出来上がっている。
やはりオーソドックスな作詞を基にした曲作りの方が作詞を担当する雅美の負担が少なく、編曲時にも雅美と一緒に作業できるのが武夫には嬉しかった。
というのも、言葉や言葉尻とかの変更を入れた方が曲に歌がマッチしたりする場合があって、その相談を入れながら武夫は編曲の仕上げを行うことにしている。
これはもちろん武夫からの提案でそうなったものであり、雅美とすこしでも一緒に居たい彼の我儘でもあった。
『雅美ちゃんにお願いがあるんだ』
『急にどうしたの?』
『いや、昨日編曲しててどうしても詩を変えたいところが出てきて、雅美ちゃんにも確認してもらいたいから今から俺ん家寄ってかない? そんなに時間は取らないから』
まだ雅美との仲も今ほど進展していなかった中学一年のとき、彼女を実家に誘ったときのことを武夫は思い出していた。
――あのころはハナも居なかったし、口実がこれくらいしか思いつかなかったんだよな。
翌日から雅美と友子は主に昼休みに千佳子も交えて昼食を食べながらおしゃべりし、一週間程度で詩を書き上げ、さらに二日後には友子がそれを歌ったテープと詩が書いてあるノートを手渡してきた。
「武夫君、はいこれ」
放課後の同好会活動が終わったタイミングで雅美がテープとノートとを手渡してきた。武夫はそれを受け取ると、その場でノートは開かずにカバンにしまい込む。
「ありがとう雅美ちゃん。あるていど目処が立ったら連絡するよ。そのあとの仕上げでまた付き合ってくれる?」
「もちろんだよ」
「助かるよ。いい曲にしようね」
「わたしの方こそ勉強になるから、楽しみにしてるんだよ。ハナちゃんにも会えるし」
編曲作業は武夫の実家で行うことになっている。学校でもできるのだが、雅美と一緒に居たい武夫がそんな選択をすることはなかった。
そんな二人のやり取りを黙って見物しているバンドメンバーたちは、ニヤニヤした笑みを浮かべて見守っているというか、明らかに面白がっている。
武夫と雅美はそんな視線に気づくことなく、二人の世界に入り込んでいるのだった。




