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第76話:つかの間の平穏な日常

 三年の全国模試と一学期中間テストを二週連続で受ける予定の武夫は、その期間に入ってつかの間の平穏を享受していた。


 とっくの昔に高校で学習する範囲の勉強を終えている武夫は、学力を維持するための毎日の復習は欠かさず継続しているが、試験期間直前であっても試験期間中になろうとも、いわゆる試験勉強をする必要性を感じたことがない。


 武夫以外のバンドの仲間たちは少しでも良い点を取って宿題を減らそうと、今の期間は同好会活動を控えてまで中間テストの試験勉強に専念している。ひるがえって武夫だけは、この同好会の活動ができない試験期間を休息期間に充てようと考えている。


 思い返してみれば武夫はこれまでの約十六年間、体調を崩した日以外は一日も休まず自己鍛錬に取り組んできたし、それ以外にもなにがしかの仕事に追われるような毎日だった。


――たまにはまとまった休みも必要だよな。


 今は若いから多少の無理をしても体に異常が出ることはない。けれども今までの状態を続けていけば、蓄積されたダメージでいつかはなにがしかの異常に見舞われることは前世の経験から明らかだった。


 それが精神的なものか身体的なものかは定かでないが、どちらにしても健康であり続けることが武夫にとって重要なことである。リア充生活を続けるためには健康であることが絶対であるからだ。体を壊してしまっては元も子もない。だから充分な休息を取って、体や心に溜まっているだろうダメージを取り払う必要性を感じていたのだ。


 身長の伸びが前世と同じく中学二年で完全に止まり、結局170cmには僅かに届かなかった武夫だが、それは諦めてあとは筋力や骨格が理想的ピアニストのそれへとなるように気を配るだけとなっている。だからこの休息期間ではピアノに触りはするが、弾くのは一~二曲にとどめて、感覚を維持するだけにしようと考えている。


 次作の発売が決まっている小説の執筆についても、去年導入したパソコン――PC98&一太郎――があるから、休養期間中に執筆作業を進めなくても、締め切りまでになんとかなるだろうと武夫は考えている。


――もう手書きしなくていいというのはデカい。ホントパソコンは偉大だよ。効率がまるで違うし、時間あたりの書ける文字数もぜんぜん多いからな。




 授業が終わって放課後に寄り道することなく武夫は自宅へと直帰して、一緒に帰途についていた雅美と別れて玄関のドアを開けると、三毛猫のハナがちょこんと座って主の帰宅を出迎えてくれた。聴覚が非常に優れている猫は、遠くから聞こえてくる足音で誰が帰って来たのか判別できるものだ。


 そんなことに武夫は感心しながら、腰をかがめてハナの眼前に右手を差し出した。すると彼女は、クンクンと充分に武夫の匂いを確認してから彼の右手に左右の頬を交互に擦り付けて、自分の匂いを彼に付けようとしてくる。


――最近相手をしてやれなかったからな。今日は存分にモフらせてもらおうか。


 武夫が靴を脱いで自室へと向かおうと歩きだすと、ハナは嬉しそうに尻尾をピンと立てて彼を案内するように階段を駆け上がっていく。そして階段の上で立ち止まり振り返って武夫が上がってくるのを待っている。


「今日はコレかな」


 武夫の部屋にはかなり高級なオーディオセットが鎮座しているが、媒体もまたものすごい量が棚に詰め込まれている。クラッシック、邦楽&洋楽のポップス、ロック、ヘビーメタル、そしてアイドルソングのLPレコードたちだ。


 これらのLPレコードは、最近になって充実してきた財力に任せて新譜を片っ端から見境なく購入したものであるが、今までは主に勉強するときとか寝る前に聴くことがほとんどだった。だから消費しきれるはずもなく、その多くは封さえ切っておらずに大量に棚に詰め込まれている、云わば積みレコードとなっている。


 武夫はその中から一枚、リラックスできそうなクラシックを適当に選んで封を破り、プレイヤーにセットしてそっと針を落とした。そしてベッドに腰かけると、ハナがぴょんとベッドに飛び乗ってきて彼の太ももの上でゴロゴロ喉を鳴らしながら落ち着いた。


――憂いやつめ。


 太ももの上で顎下をモフられているハナは、両目を細めて相変わらず喉を鳴らしながら気持ちよさそうにしている。武夫はそんな彼女を優しい瞳で見おろしながら、モフモフな感触を存分に味わうのだった。




 武夫はこの日から数日間、学校が終わると真っすぐ自宅に直帰し、レコードを聴きながらハナと戯れる日々を満喫していた。日課になっている妹の朋子ピアノレッスンは欠かさなかったものの、そのときも常にハナの相手をしながらであり、ピアノに触れることなく、助言をするだけにとどめている。


 校内の一年で武夫一人だけが受けた三年生用の全国模試が終わり、一学期の中間テストがはじまっても彼の放課後ルーティーンが変わることはなく、ハナを愛で、朋子に助言をするだけの日々が続いていたが、あと二日で中間テストが終わるという日の夜に掛かってきた電話で、彼の休息期間が終わりを告げるのだった。

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100話到達記念SSを投稿しました。内容は雅美が父を亡くしてバンドに加入するまでの雅美視点でのスピンオフ短編です。

転校したらスパダリさんに出逢った

このリンクから飛べますので興味がおありの方はどうぞお読みください。
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