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第47話:ライブが終わって初詣

「バッチリ決めやがって、客もスゲー盛り上がってたし、もうお前にファン付いてたぞ。しかもお前、ぜんぜん緊張してなかったじゃねぇか。なんかコツでもあんのか?」

「コンサートの経験なら何度かあるから。生オケの前でやったこともあるし」


 ライブが終わり、武夫たちは控室に集まっていた。ピーキーアントの三人も一緒だ。打ち上げということでちょっと遅い年越しそばを皆で頂いている。


 そんななか、興奮した様子で雄二が武夫に話しかけていた。ライブでよほど腹が減ったのだろう、ピーキーアントの三人は凄い勢いでズルズルとそばをすすっていて、それでも視線は武夫たちに向けられていた。


 武夫たちもそばを頂いているが、千佳子の視線がヤバい。彼女はそばをすすりながらも武夫から目を離さず、まるで心酔しているかのようにうっとりしていた。よほど武夫の演奏に感じるものがあったのだろう。


「ああピアノか、そいうやそんなこと言ってたな。客はどんくらいだ?」

「うーん、五千人くらいはいたかな」

「ほえー、五千人か――」


 速攻でそばを食い終えた川本さんが隣に座っていた正彦に小声で耳打ちするように聞いてきた。ほかのピーキーアントの二人も興味深そうにしている。


「ピアノでコンサートに出演したの? 五千人の観客の前で?」

「アイツ、本来はピアノが本業らしいんですよ。プロのピアニストにゲストとして招かれてそこで共演したことがあるらしいです」

「じゃぁプロのピアニストってこと?」

「一応そうなるんじゃないですかね? 本人はピアノが本業としか言わないんですけど。でも、ギターよりピアノの方が格段に上手いとは言えますね。実際に何度か聴いたことありますし」


 ヴォーカルの人が得心がいったようにつぶやいた。


「なるほどね。彼、中学生のわりに良いギター持ってるなと思ってたんだ。あれ、ギブソンのかなり高級なモデルでしょ? ゲストでも出演料はもらってるはずだから、それで買ったんだろうな」

「どうなんでしょう」


 正彦はそうとしか答えなかった。彼は武夫が出演料を貰ってコンサートに出演したことは本人から聞いていたが、そこまでは話さなかったようだ。


 川本さんはそんなことを気にしてはいないようだった。ただ、武夫の能力にはかなり興味があるようだ。


「天は彼に三物も与えたのか。アレンジ能力、ギターにピアノ。作曲とかもできるんじゃない。彼?」

「いえ、作曲はてんでダメだって言ってましたね」

「そうか、苦手なこともあるんだな」


 ピーキーアントとはこの場で別れることになった。今後彼らとの関係がどうなるのかは分からないが、武夫としては積極的にかかわっていこうとは考えていない。ただ、雅美とともにステージに立つ自信がついたこと、彼女もステージでやっていけるだろうことが確認できたことには感謝している。


 だから武夫がアレンジした六曲は自由に使って良いと伝えてあるし、打ち上げの二次会にも雅美とともに誘われたがそれも遠慮している。武夫としては仲間たちだけで楽しみたかったし、なによりも雅美と初詣に行くことのほうが重要なのだ。それがたとえバンドメンバー六人一緒だったとしても。




「予想だにしない形で先を越されちまったな。武夫」

「まぁ不可抗力というか?」

「そうだよな。すべてオヤジが悪い――」


 雄二は少しだけ悔しそうだった。バンドメンバーの中であのステージに一番憧れているのが彼だと知っている武夫は、ただ黙って彼の愚痴を聞いていた。正彦は六人の先頭を道案内するように一人で歩いていた。


「マミちゃん可愛かったよ」

「うんうん、ちゃんと演奏できてたしピーキーアントの人たちに負けてなかった。師匠に教えてもらったの?」

「うん、わたしでも弾けるようにアレンジしてくれたんだ」

「さっすが師匠――」


 女子三人も固まって歩いて和気あいあいとしている。


 六人が向かっているのは知る人ぞ知る寂れた神社だ。商店街の近くにわりと大きな神社が二か所あるが、どちらも初詣客でごった返すことが目に見えていた。


 そんなとき、正彦がちょっと歩くことになるけど寂れた小さな神社を知っているというから皆で彼に案内してもらっているのである。


 商店街を出て人の流れに逆らうように大通りをしばらく歩き、通りから外れた小道に入った。人通りはほとんどなくて周囲は民家ばかりだ。


「ホントにこっちに神社あんのか?」

「心配するなって、小さいけど神社はあるから」


 それからかなり武夫たちは歩いた。時間にして二十分ほどだろうか。ライブハウスを出てからは三十分強の時間が経過している。


「あそこだ」


 正彦が指さした先。そこには大木に囲まれた公園があって、その奥にたしかに鳥居があった。けれども照明は公園の一部を照らすのみで、神社は真っ暗だ、


「な、人がいないだろ。暗いけどこれがあれば大丈夫だし、ちゃんと賽銭箱もあるぞ」

「寂れすぎだ! おみくじすらねぇじゃんか――」


 背負っていたリュックから取り出した懐中電灯で神社を照らし、得意げな顔をしている正彦に、キレ気味の雄二が激しいツッコミを入れている。そこに千佳子がさらにツッコミを入れ、友子は「そうだそうだと千佳子を囃し立てている」


 武夫としては雅美と初詣さえできればそれで充分だったから、神社がどれほど小さかろうが寂れていようが気にはならなかった。それに今がチャンスだとばかりに、騒がしい四人を放っておいて雅美に話しかけた。


「雅美ちゃん、今日の演奏は良かったよ。これからもよろしくね。あ、いまは明けましておめでとうか」

「武夫君にそう言ってもらえると嬉しいかな。それと、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


 武夫と雅美はいまだにワキャワキャやっている四人の声を背に受けながら賽銭を投げ、武夫は今年の安泰と雅美との関係が進展することを祈願した。


 こうして武夫たちの新年は明けたのだった。

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100話到達記念SSを投稿しました。内容は雅美が父を亡くしてバンドに加入するまでの雅美視点でのスピンオフ短編です。

転校したらスパダリさんに出逢った

このリンクから飛べますので興味がおありの方はどうぞお読みください。
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