第40話:年越しライブ その一
一九八三年十二月三十一日
今日は雄二の実家のお手伝いだ。中学校は十二月二十五日のクリスマスから短い冬休みに入っていて、当然武夫たちも休みに入っているが、その間の練習場所として雄二の実家のライブハウスが使われていた。休日や日曜日もここを利用することが多い。
午後からはライブが行われるからバンドの練習は午前中限定だ。そしてイブとクリスマス当日は、日本中のカップルたちが大いに燃え上がるイベントデーだが、バンドのメンバーはまだまだ健全な中学一年生だった。
イブの放課後は中学校でバンドの練習に終始し、クリスマス当日は午後からグループ交際のごとく六人揃ってアーケード街でショッピング&プレゼントの交換会だった。とても健全で微笑ましくもある中学一年生らしい男女交際である。
「マスクメロンは無いよなぁ」
「なんでも好きなもの選んでいいってカッコつけたの、お前じゃん。自業自得だ」
軽くなった財布の中を覗きながら正彦がうなだれていた。雄二はそんな正彦の肩を叩きながら笑いをこらえている。マスクメロンが入った紙袋を胸に抱きかかえている友子は、キャッキャうふふと三人で固まっている女子たちの中で満面の笑みを湛えていた。
その他のバンドメンバーが送り合ったクリスマスプレゼントはささやかなものだった。雄二は千佳子にギターの弦をプレゼントしていたし、千佳子は雄二にドラムのスティックを送っていた。正彦が友子からもらったプレゼントはクマのぬいぐるみである。どうやら彼は可愛いものを隠れて愛でる癖があるようで、それがバレて顔を真っ赤にしていた。
「ありがとう武夫君。大切に使わせてもらうね」
「俺も大切にするよ。雅美ちゃん」
そして武夫は雅美にプレゼントを贈ることになった。六人のなかで余っているのはこの二人しかいないわけだから当然の成り行きだったが、このときばかりは雄二たち残りの四人が上手い具合に恋人同士であることに武夫は感謝した。
二人が送り合ったのはマフラーだった。雅美の懐事情を察した武夫が「寒いし、マフラーがいいかな」と気を使ったわけだが、彼はすぐにプレゼントされたグレーのマフラーを首に巻いて「似合うかな」と満足げに照れていた。マフラーの色は違うが。
雅美も武夫に倣って彼から贈られた薄桃色のマフラーを首に巻いて「温かいね」と返す。すると武夫は「お揃いだね」とさりげなくアピールしていた。
そんな健全なクリスマスが終わって、彼らの関心はライブハウスで行われる年越しライブに移っていた。大みそかは昼過ぎからライブハウスがオープンし、陽が高いうちは駆け出しのバンドが、陽が暮れてからは息の長いベテランや人気のバンドが順繰りに演奏していく。
そして年をまたぐ一番盛り上がる時間に、エース格のバンド――もっとも客が呼べて実力がある――が、会場を最高潮に盛り上げることになっている。
年越しライブには一年で最も多くのバンドが出演し、当然客の入れ替わりが非常に激しくなる。小さなライブハウスだから仕方がないことだが、客もそれをわかっていて、贔屓のバンドの演奏が終わると自主的に席というか場所を開けてライブハウス側を助けてくれるらしい。
となると、忙しくなるのがライブハウスの従業員だ。法令の関係で、ライブハウスは名目上飲食店ということになっている。客は最低限ワンドリンクを注文する必要があって、それを提供したり、受付だったり、会場の雑務だったりと恐ろしく忙しい日になる。
通常は雄二の家族とアルバイト二~三名ほどで回しているらしいが、大みそかだけはそれだけでは足りないらしく毎年手伝ってくれる人を集めるのに苦労しているのだとか。
そんな理由から、雄二に懇願されてこの日武夫たちはライブハウスのお手伝いをすることになった。武夫たちの仕事は前準備と始まってからは裏方だ。午前中は客席側の椅子をすべて片づけて床とかステージのモップ掛けとか、控室の掃除だ。
午後からは機材をステージに出したり引っ込めたりするのを手伝ったり、ドリンクを運んだり大量に出るゴミを集めてまとめたりと雑用を担当する予定だ。
「おっし、客席はこんなもんか、あとは控室を掃除して終わりだ」
雄二はしょっちゅうやっているだけあって、指揮を執りつつも手慣れた様子で作業を進めていった。そして控室の掃除も終わり、控室でご褒美の昼食で出前のラーメンを頂いてまったりしていたら、ガヤガヤと話し声が聞こえてきてガチャリとドアが開けられた。
「お、先客か?」
「あ、いま空けますんで」
「なんだユウ坊か。今日は手伝いか?」
「はい、コイツらは俺のバンド仲間っす」
部屋に入ってきたのは高校生だろうか、まだ若い男の四人組だった。見た感じドラムにベース、ギターが二人だろうか。最初に控室に来たということは初っ端の出演バンドだろうから、まだマスターに認められたばかりだということだろう。
「慌てなくてゆくりしていいよ。俺たちもまだ駆け出しだから」
慌ただしく食器を片づけていたら、先頭に入ってきたギターもベースも背負っていないおそらくドラマーの人が声をかけてきた。
「いえいえ、俺たちも仕事が詰まってるんで。気ぃ使ってもらってすんません」
そそくさとそれぞれの食器を手に六人は控室を出た。
そんななか、武夫はこれから始まる年越しライブという一大イベントに興味津々だった。彼はまだアマチュアバンドのライブ演奏をほとんど聴いたことがない。
手伝いで忙しいといっても、生音が聴こえてくるだろうからマスターが認めるバンドのレベルを推し量ることもできる。はたしてそれはどの程度なのか。自分たちの位置はどこにあるのか。将来のためにも知っておきたいと期待する武夫だった。




