第37話:オリジナル曲の編曲完了
先日突発的に開かれた武夫の音楽部内だけのピアノリサイタルもどきは、土曜日午後の恒例行事として毎週開催することになった。坂口先生と岩本部長のなかばごり押しの命令に近い提案だった。
けれども、これまでは同じ音楽部員同士でありながら、バンドメンバーとその他の部員の交流がほとんど無かったから、これはこれで良かったかもしれないと武夫は思っている。
そしてバンドのオリジナル曲は、雅美の歌詞が完成して今まで武夫が編曲作業をしていた。それがとうとう完成し、あとはバンドメンバーにお披露目するだけとなっている。
当初は一週間程度で出来上がる予定だったが、バンドのオリジナル曲第一号ということで、細部にわたるまで何度も練り直しをしていたら二週間ほどかかってしまった。
「やっとできたよ」
授業が終わって音楽準備室に集まった面々の前で、武夫はカバンから数十枚の紙束を取り出した。その紙束は四部あって、リードギター用とリズムギター用、キーボード用、そしてヴォーカル用に分かれていた。
「すまん、ベースとドラムはこれをもとに自作してくれ。もちろん意見は言わせてもらうし、逆に質問も提案も受け付ける。ここからはメンバー全員で仕上げていきたい」
武夫の名誉のために言わせてもらうと、女性陣全員分の楽譜を用意し、男性陣の楽譜を用意しなかったのは依怙贔屓でもなければ彼が女好きということではない。ただたんに、彼にベースとドラムの専門的な知識がないからだった。ただの偶然である。
楽譜が読めない友子にまで楽譜を用意したのも、彼女が楽譜を学びたいと言ったからであって決して依怙贔屓ではないのだ。そんなふうに武夫は心の中で言い訳をしたりしていた。
それぞれが楽譜を受け取ってすぐ、友子が瞳をキラキラさせて言った。
「タケっちタケっち、聴っきたい。聴っきたい」
雅美も武夫を懇願するような瞳で見上げてきた。
「うんうん、どんな感じになったのかすっごく興味あるかも。弾いて弾いて」
そのほかのメンツも期待感一杯の顔で武夫を見つめている。
「分かったよ。今から弾くから」
友子と雅美が武夫の前からサッと左右に解れ、キーボードまでのまでの道が開けた。武夫は覚悟を決めてその道を歩く。気心の知れた仲間たちにであっても初披露では緊張はするものだ。それなりの覚悟というには大げさすぎるが、行動を起こす踏ん切りは必要だった。
キーボードを前に腰を下ろした武夫の指が音を奏ではじめた。
爽やかな朝の目覚めを思わせる静かでゆったりしたイントロから曲は始まった。Aメロに入ると、明るい曲調でテンポを少し上げ、コードはCメジャーキーのカノン進行のままだ。ここまではたたき台と変わらなかった。
ただしそれはコード進行だけの話だ。
Aメロではこれからなにかが始まると期待感を膨らませるようにもう一つの副旋律を被せ、主旋律を強調してワクワク感を演出した。
たたき台ではBメロに入って序盤はふたたびゆっくりな進行に戻ったが、完成版ではよりゆったりと、より静かで繊細な音で曲が進行していった。そこから徐々にテンポとキーを上げていくのだが、さらに音数も増やしていってサビへの期待感を煽った。そして音が止み、充分な間を開けから
爆発的に音圧を上げて大盛り上がりのサビのメロディーを情熱的に、そしてテクニカルに弾き連ねていく。
――やっぱりこのサビには特別な何かを感じる。
そんなことを考えながら演奏している武夫であったが、バンドメンバーたち反応は激的で、友子は前回よりも瞳をキラキラ輝かせているし、千佳子は武夫を拝むようにして見ている。雄二と正彦は腕を組んで目を閉じ、真剣に聴き入っている。
そして雅美は、感動しているような面持ちで打ち震えている。
サビを弾き終えた武夫は、盛り上がった余韻に浸らせるようなメロディーを静かに奏でテクニカルなアウトロを弾いて演奏を終えたのだった。
歌詞はまだ一番しかないから演奏はここで終わったが、完成版では二番までは作ることになっている。
「サイッコーだね。タケっち!」
ノリノリで聴いていた友子が親指を立てて満足そうに頷いた。
「うんうん、ものすごく完成度が上がってる。テレビとかラジオから聞こえてきても不思議に思わないくらい凄い曲になってた。わたしもはやく二番を仕上げなくちゃね」
雅美はこのバンドを完全に自分の居場所として落ち着いたようだった。ここ最近は不安そうな顔を見せることが全くなくなったし、武夫に対する言葉にも遠慮がなくなってきている。
――よしよし、良い傾向だ。
「あとは俺たち次第だな」
「そうだね。この曲の完成度を俺たちが落とさないようにしないと。もう一回お願いできるか? 今度はヴォーカルも入れて」
正彦は武夫と友子を見てそう言った。
「おっけーだよー」
「了解」
「お前らちょっと待て、録音するから」
雄二が慌ててラジカセにテープをセットしている。
――なんかいい雰囲気だな。
「おっしゃ、武夫、いつでもいいぞ」




