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第26話:現状把握と今後の方針

 音楽準備室の楽器の移動と掃除が終わり、ジュースを飲んでひと心地ついたところで、武夫が切り出した。


「ところでさ、バンドの方向性とか決まってんの? あと、持ち歌っていうかオリジナルの楽曲とかある? それともコピーバンド?」


 武夫と雅美を除くバンドメンバーたち四人が顔を見合わせた。


「オリジナル一択!」


 元気よく宣言した友子の頭を軽くポンと正彦が(はた)いた。


「それは理想。ハウンド・ドッグとか浜田省吾とかクイーンの曲を練習することが多いかな」

「ふーん、ロック系ね悪くない。メタルはやらないの?」


 前世の一九八〇年代前半はヘビーメタルやハードロックが日本含めて世界的なブームになっていた。それは今の現実でも変わらない。


「メタルはちょっとな」


 雄二が歯切れが悪そうにそう言った。


「ちょっと?」

「ああ、俺達にはまだちょっと早いというか、速いというか」

「ん?」


 武夫が不思議に思っていると、正彦が雄二の頭を小気味よい音で叩いた。


「正直に言ったらどうだ。バスドラの連打で足がもつれるからだろ」

「まぁそうとも言う」


 ああ、アレは確かに疲れるだろうなと武夫は思った。ドラムに関して未経験の武夫に、雄二を助けることはできない。


「ああ、そうそう、バンドの方向性だったよね。いままではロックを志向してやってきたけど、特にこだわってはいないというか」

「希望とかは無い?」


 武夫は雅美を見てそう言った。雅美は「えっ!? わたし?」みたいな感じで自分を指さして考え込んでしまった。


「はーい、はいはいはい、はーい」


 すると友子が元気よく手を挙げて武夫に猛アピールしてきた。雅美は惑わされることなく考えているようだ。一人だけ視線が下を向いていて真剣な顔をしている。


「はいはい、トモちゃんなにかな」

「アタシはみんなで作ったオリジナルを歌いたいでーす」


 当然武夫もコピーバンドはやりたくない。けれども彼には致命的な欠点があった。作曲センスの欠如である。作詞も苦手だ。たとえ彼が小説家であっても苦手なものは苦手なのだ。


 けれども武夫はひらめいた。いや、大層なことではない。なにも自分で作詞作曲する必要なんてないじゃないか。こんな誰でも考えつくようなことになぜ思い至らなかったのか? それは彼が、前世ではずっと、なにもかも一人で済ませてきたからである。


 武夫は前世で、大学卒業以来ずっと一人だった。友達と呼べるような存在が居なかった。ブラック企業に勤めていたときもそうだ。外回りの営業だったからチームで行った仕事などない。


 でも今は違う。五人もの仲間がいる。懇意にしてくれる先生たちもいる。そして両親と妹たちがいる。なにより愛おしくてたまらない雅美がいる。もう彼は一人ではないのだ。


「じゃぁ皆で一曲作ってみる? あ、俺は作曲、大の苦手だから編曲を担当したい」

「はーい、はいはいはい、はーい」


 即座に被せるように反応した友子に武夫が聞く。


「はい、トモちゃん」

「アタシは作曲と作詞がでっきまーす」


 友子はVサインを掲げて得意そうだ。けれども雄二と正彦の反応がおかしい。渋面(しぶづら)というか、苦虫をかみつぶしたようなというか。


「友子の場合サビ部分のメロディーは凄く良いんだ。しかし曲全体を通してみるとイマイチというか。それに歌詞と曲名が独特すぎて、なぁ雄二」


 正彦に同意を求められるように振られた雄二は、とても言いにくそうだ。容赦ないディスられ方をした友子は、あからさまな不満顔で正彦に無言の抗議をしている。正彦は涼しげな顔で受け流していた。これでこの二人が好き合っているというのだから、男女の恋愛関係というのは、いろいろな形があっていいんだなと武夫は関心しきりだ。


「まぁ、なんというかアレだよな。作詞も作曲もてんでダメダメな俺と千佳子と正彦と比べたらなぁ、メロディーが作れるだけスゲーっていうかなんというか」


――うん、面と向かって言えないよな。だけど良いサビが作曲できるってのは強いんじゃないか? 聴いてみないと分からないけど、キャッチ―なサビがある曲は人気曲の絶対条件だ。ライブハウスデビューを目指すにも、文化祭で成功するにもキャッチ―な曲は絶対に必要だもんな。


――あとは歌詞だが、雅美ちゃんか千佳子ちゃんが作詞できれば良いけど……。


 武夫がそんなことを考えていると、雅美がおずおずと手を挙げた。かなり緊張しているみたいだ。


「あの、わたし作詞に挑戦してみようかなぁって。トモちゃんが許してくれたらだけど」


 まるで武夫の心理を読んだかのよう申し出だが、よくよく考えれば作詞を担当するはめになるのは彼女か千佳子しかいないわけで、しかも千佳子は作詞の担当からから逃れようと思っているのか、影を薄くして小さくなっていた。けれども今は、わが意を得たりと言わんばかりに目の色を変え、友子にズイと顔を寄せた。


「許すもなにもない。そうだよね、トモちゃん」


 千佳子がもの凄い目力で友子を威圧している。友子はその圧力に気おされて、怯えたように小刻みにウンウンと頷いている。


「作詞は雅美ちゃんに決定。異論は私が許さない」


 千佳子はそう言って皆を見回した。そのゆるぎない目力に、皆はウンウンと頷いた。


――これで担当は決まったってことかな。さて、トモちゃんの作曲センスはどんな感じなんだろう?



「今までの話からすると、オリジナル曲、作ったことがあるってことだよね? 一回でいいから聴いてみたいかな。演奏ヨロシク」

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★★★★★ m(_ _)m

100話到達記念SSを投稿しました。内容は雅美が父を亡くしてバンドに加入するまでの雅美視点でのスピンオフ短編です。

転校したらスパダリさんに出逢った

このリンクから飛べますので興味がおありの方はどうぞお読みください。
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