第24話:音楽部
「あのさ、みんなで音楽部に入らないか。もともと音楽部は自由に活動していいみたいだし。今は合唱部みたいになってるけどさ、六人でバンド活動してもたぶん大丈夫だと思うよ」
「さんせー」
武夫の提案に、いの一番で乗ってきたのは友子だった。ほとんど何も考えていないくらいの即答だった。もともと彼女が自由人だなと感じていた彼には、この娘は反射だけで生きているんじゃないのか? と、思わせるくらいの即答だった。
「師匠がそう望むなら私はついていく」
千佳子もブレない性格をしているなと武夫は感じている。あいかわらず表情は読めないが。
「僕は構わないけど、雄二、どうする?」
正彦はクールな秀才キャラに見えるが、武夫は彼の性格がまだ掴めてはいない。なにか大きな見落としがあるんじゃないか。彼はそう思っている。あの自由人である友子の彼氏になっているのだから。
ただ、正彦と雄二が親友の関係にあることだけは武夫も理解した。
「ドラムセットがな……」
たしかに雄二が言うように、中学にドラムセットは無かった。これは大きな問題である。ドラムの音がないと演奏が締まらない。武夫がそう考えていると。
「しゃあねぇな。ちょっとナシつけくる」
そう言って雄二がステージ奥に消えていった。
「まあ、ヤツなら問題ないでしょ。僕と武夫と千佳子ちゃんのベースとギターは問題ないとして、キーボードはどうする? ピアノじゃなんか違うし」
正彦にそう言われて、武夫はこの問題を完全に失念していたことに気づいた。
――やっちまった……。
今、一番気を使わないといけない雅美のことが、一部抜け落ちていた。音楽部に入りたいと聞いていたから、バンド活動も学校でやればいいと武夫は安易に考えてしまった。
雅美がものすごく不安そうな顔をしている。
――なんか、目が潤んでないか? クッ、これはこれで可愛い。でもそんな邪な気持ちになっちゃダメだ。
雅美は今、かなり情緒が不安定なはずだ。少しでも早く安心してもらうことしか、武夫には考えられなくなっていた。
「ああ、それについては大丈夫。お古になってしまって申し訳ないけど、俺ん家にあるキーボド持ってくるから」
そうすることがさも当然であるかのように、なにも問題は無いと言わんばかりに武夫は発言している。それは少しでも雅美に安心してもらいいたかったからだ。そして自分には、また新しいのを買えばなにも問題は無いと心の中で言い聞かせた。
「気を使ってくれたんだね。ありがと、武夫君。あれ? また涙が出てきちゃった」
雅美の涙はしばらく止まらなかった。武夫はただ情けない顔でオロオロし、ここには居ない雄二を除く三人の生温かい視線が注がれていた。
「ん? どったの?」
右手でVサインをしながら笑顔で戻ってきた雄二は、嬉しそうに涙をぬぐう雅美を見てギョッとし、生温かい空気に戸惑いながら首を傾げた。
「なんでもない、気にするな。ドラムの問題は片付いたみたいだな」
「お、おう。土日の夜に客席の掃除一年間でなんとかなったぜ」
楽器の問題もすべて片付き、この日はこれで解散になった。
皆に帰る方向を聞いた武夫は、雅美と同じ方角だったことに歓喜した。ただ、自転車での移動だ。横に並んで走るわけにもいかず、かといって大声で会話しながら自転車に乗るのも危ないと思って、武夫は雅美を先導するようにペダルを漕いだ。
そして分かった思いがけない事実。それは雅美の住むアパートが武夫の家のすぐ近くだったということだ。徒歩で一分もかからない、まさにご近所様だった。
「あの、今日はホントに色々とありがとうございました。そして心配かけちゃってゴメンナサイ」
「いえいえいえ、めっそうもございません。って、ちょっと堅苦しかったかな。つられちゃったよ。ていうかご近所様だったんだね。なんか嬉しいよ」
「はい! わたしも嬉しいです」
武夫と雅美は彼女のアパートの前で嬉しそうに、それはもう嬉しそうに両名とも顔を赤らめて話している。
雅美とご近所さんだったという幸運に恵まれたこともあるが、再会初日でここまで親密になれたということが武夫は嬉しかった。
かなり出来すぎの感もあるが、トラブルも多かった。まさか初日にここまで怒涛の展開になるとは、武夫自身予想だにしていなかった。
「じゃぁ雅美ちゃん、また明日」
「はい、また明日」
終わり良ければすべて良し、ではないが、すべてが好転したことに武夫は安堵した。明日、また雅美と楽しい時間が過ごせることを願いながら自転車を押すのだった。その瞳は希望に満ち溢れてキラキラと輝いているが、顔はだらしなく弛んでいた。




