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第23話:バンド結成記念

 武夫がアレンジしたカノンロックの静かな前奏が始まった。雅美が奏でるキーボードの柔らかな旋律が静かな観客席に染みこんでいく。そして前奏が終盤に近付いたところで武夫がエレキギターの伸びやかなリフを乗せて前奏が終了。一瞬の間をおいてドラムとベースが16ビートのリズムを刻み始める。そこにリズムギターが加わり、最後に武夫のリードギターが軽快なAメロを奏ではじめた。


 同時に友子が、マイクに向かってシャウトしているが声は聞こえてこない。彼女は本気で心の中で歌っているようだ。どんな歌詞をつけているのか、あるいは歌詞なんてなくてハミングでもしているのか、武夫には分からなかったし、分かろうとも思わない。


――本人が楽しいならそれでいいか。


 武夫は気にしない事にした。Bメロに入ると情緒的な旋律でタメを作り、そこからサビにはいって、武夫はピックを咥えて高速タッピングを駆使したテクニカルなライトハンド奏法を前回同様に披露。そしてここからアドリブソロに入ったわけだが、友子がマイク片手に体を寄せてきて、エアギターならぬエアヴォーカル? で乗りに乗っていた。


 そんなこんなでもう一度サビに戻ってからアウトロが終了し、最後はドラムの連打に合わせてギターを掻き鳴らして演奏を終了したのだった。


 するとステージ脇から拍手が聞こえてきた。


「新メンバー二人も見つかったのか?」

「オヤジ」


 雄二の父親らしい。ということはここのオーナーだろう。四十前後の渋いオッサンだ。


「そうでーす。新生クアッドグリントの誕生だよー」

「そうかそうか。良かったな、トモちゃん」


 オッサンはウィンクして親指を立てた。


「イェーイ」

「でも六人ならクアッドじゃなくなるぞ」

「ほへ?」


 マイクを天に掲げて笑顔を弾けさせていた友子が、首をコテンと傾けて不思議そうな顔をしている。


「トモちゃん」


 千佳子が手招きすると、友子はマイクを天に掲げたまま彼女に近寄った。千佳子はそのまま耳打ちした。すると、ぱっと瞳を輝かせた友子は、マイクを掲げたままの姿でわざわざ元の位置まで正面を向いたまま後ずさりするように戻っていった。


「新生セクストグリントの誕生だよー」

「そうかそうか。良かったな、トモちゃん」


 再度オッサンはウィンクして親指を立てた。


――かなりノリがいいオッサンだな。


「イェーイ」


 どうやら彼女は最初の発言を無かったことにしたらしい。正彦は鼻筋を摘まんで目をつぶり、首を左右に小さく振っていた。そんな寸劇を見ていた武夫だったが、不意に雄二の声が聞こえてきた。


「それでオヤジ、どうだった?」

「まだまだだな。多少聴けるようにはなったが」

「で、どこがダメだったんだ? 正直に教えてくれ」

「ドラムとベースだ」


 躊躇なく答えられたその声を聴いたとたん、雄二と正彦ががっくりとうなだれてしまった。


「キーボードとリズムギターはぎりぎり及第点だ」


 千佳子が小さな声で「やった」と口にして瞳を輝かせた。雅美はなんのことやら分かっていないようだ。


「リードギターはアレだ……ウチのエースより格段に上手い。というか坊主、見かけない(つら)だが、とこかでプレイしてたのか?」


 それは鋭い眼光だった。しかしその視線には興味深そうな好奇の色合いが含まれている。


「あー、俺の本職はピアノです。だから、誰かとプレイしていたわけじゃないです」

「そうか……坊主さえ望めばだが、プロ一歩手前のメタルバンドがリードギターを探しててな、紹介してもいいんだが」

「遠慮しときます」

「即答かよ、まぁ聞いてみただけだから気にしないでくれ」


 改めて近くで見ると、雄二の父親はデカかった。185cmはあるんじゃなかろうか。やはり遺伝の力は絶大だ。雄二の身長が高いのも納得できる。そんな理由で、最近身長の伸びが緩くなった武夫は、すこし僻みが入った心情での返答だったわけだが、あっけなく引き下がってくれて内心ではほっとしている。


「ねぇねぇアタシは?」

「サイコーだったぞ、トモちゃん」

「やっりー」

「じゃあな。頑張れよ、そこの二人」


 雄二の父親は息子と正彦にそう声をかけ、ステージ奥へと消えていった。


「しゃあねぇ、打ち合わせすっぞ」


 雄二の声掛けで皆がステージに集まった。


「吉崎と白石さん、明日からの話だが平日はここが使える。だから放課後はここ集合でいいか?」

「うーん、俺、音楽部なんだよね。だからそれは無理かな。白石さんも音楽部に入るみたいだし」

「はいはいはーい。提案がありまーす」

「なんだ友子」

「仲間になったんだから、もう苗字呼びは()そうよ」

「それもそうだな。いいかえっと……」


 そういえば雄二には名前まで名乗っていなかったなと武夫は名乗ることにした。


「俺は武夫だ。分かればどう呼んでもいい」

「わたしは雅美でいいよ」

「OKOKじゃぁタケっちって呼ぶね。えっと雅美っち? 雅っち? 雅ちゃん? よし、マミちゃんって呼ぶー」


 友子は、かなり自由人でマイペースだ。ただ、前世でも彼女にはそう呼ばれていたなと、武夫は思い出した。そして彼女こそが、前世の同窓会で雅美が殺されたことを教えてくれた人物だった。さすがに還暦にもなると言動もしっかりしていたが、独特のアクセントに名残があった。


「私はもう決まってる。師匠は師匠。白石さんは雅美ちゃん。私は千佳子。どう呼んでくれてもいい」

「俺は雄二でいいぞ」

「僕も正彦でいい」

「アタシは友子でもトモちゃんでもどっちでもいいよー」

「じゃあわたしは武夫君、雄二君、正彦君、トモちゃん、チカちゃんって呼ぶね」


 皆の呼び方が決まったところで、武夫が切り出した。

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★★★★★ m(_ _)m

100話到達記念SSを投稿しました。内容は雅美が父を亡くしてバンドに加入するまでの雅美視点でのスピンオフ短編です。

転校したらスパダリさんに出逢った

このリンクから飛べますので興味がおありの方はどうぞお読みください。
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