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第109話:クリスマスソング

「オリコンで23位って喜んでいいんですか?」


 武夫には23位という順位がどれほどのものなのか分からなかった。興味がなかったというわけではないが、彼的には順位よりも売れ行きは順調なのかということの方が重要だったのである。


 それはもちろん雅美に入る金額に直結するからである。武夫自身はすでに金銭的にかなり余裕があるから、自分が儲かって嬉しいとかそういうことはあまり気にならない。けれども金銭的に苦労している雅美のことを考えると、彼女により多くの金額が入金されることを彼は望んでいる。


――まぁ、この興奮ぶりからすると良い結果なんだろうけど。


「週の途中からの集計結果ですからね。インディーズレーベルであることを加味すると、大健闘と言っても過言ではないですよ。来週の順位次第ですが、早いうちにメジャーレーベルとの契約に切り替えることを考えた方がいいかもしれません」


 武夫が聞きたいことはそんなことではなかった。たしかにメジャーレーベルと契約したら、プロモーションとか支援体制や著作権管理とかお金のこととかいろいろと便利だ。けれども高校在学中は外でのバンド活動はライブハウスだけだし、テレビとかラジオに出演する予定もない。そういう契約だ。


 山根さんはメジャーレーベルの人だが、武夫たちが契約した傘下のインディーズレーベルとの橋渡し役というか、営業とかその他もろもろの管理とか窓口まで引き受けて、武夫たちをバックアップしてくれている。


 要するに武夫たちはインディーズレーベルからレコードとかCDを出してはいるが、実質メジャーレーベル所属のアーティストと変わらない待遇を受けていると言っていい。


 それは置いておくとして、武夫は気になっていることを聞くことにした。


「何枚くらい売れそうか分かりますか?」

「今の時点では十万枚は超えるでしょうとしか言えないわね。来週の集計でどれくらい売れたか、どれくらいの期間売れ続けるか、時が来てみないことにはなんとも言えないわ」

「そうですか、教えてくださってありがとうございます」


 ――やっぱりクラシックとは桁が違うな。


 以前武夫が出したピアノソロのレコードは、収入はそれなりのものだったがCD合わせてぎりぎり一万枚に届いたそうである。ファンの母数の違いと言ってしまえばそれまでだが、山根さん曰くクラシックのソロアーティストとしてはかなり売れた方なのだそうだ。


 それはいいとして、十万枚の売り上げなら雅美には作詞印税が乗っかるはずだから、彼女には少なくとも確定申告が必要な額が振り込まれるはずである。もし二十万枚を越えれば、母親の収入を抜いてしまうことになるだろう。


 そこまでざっと計算し、武夫はとりあえずの安堵を得たのだった。


――アルバムの売り上げも加わるしな。当面は雅美ちゃんもお金に困ることは無くなるだろうけど、受験を考えるともう少し余裕が欲しいかな。


 三年になれば武夫たちは否応なく受験対策に追われることになる。いや、武夫に限ってはそうとも言えないが、彼的には雅美のお手伝いをする気満々なのであるから、結果的に彼も受験モードになることは間違いない。


 となると、あと一年強の期間でもうすこし稼いでおきたいと思うのは当然の成り行きだろう。まだ一曲目が世に出たばかりだというのに気が早いのでは? そう考えるかもしれないが、なにごとにも時勢というかタイミングというか攻めどきがあるのも確かだ。



「おっしゃ! これでドラムセットのグレードアップだ」

「うんうん、わたしも次の曲に向けてがんばらないと」


 武夫が仲間たちにオリコンにチャートインしたことと売れ行きの予測を伝えたところ、真っ先に反応した雄二に続いた雅美の言葉がこれだった。


 雅美は最近になって、というかバンドの人気が出だしてから、具体的にはレコードデビューの話が出てから以前よりバンド活動に積極的になったと武夫は感じていた。以前は仲間たちに後れを取らないように頑張って練習しているというか、必死についてきている感が強かった。


 けれども今は、練習も以前以上に真剣味が増しているし、作詞にしても数をこなそうと手元にはノートと筆記具を常備している。そんな雅美の力に、武夫は当然なりたいわけだ。


 武夫が山根さん情報を伝えたあとは、皆同様に驚き、そして歓喜し、各々の練習に散ったわけだが、武夫はギター片手にというかいつでもギターを弾ける状態で雅美と友子の共同作業に、さも当然のように加わっていた。


「湧いてきた、湧いてきたよマミちゃん……ふんふんふふん……舞い散る粉雪と~イルミネーションの~光が混ざりあーって~」


 雅美のノートを見ながら友子が歌詞を口ずさんでいる。それはかなりキャッチなメロディーで、雅美と友子が現在創作中の歌がクリスマスソングであることを示していた。


「かなりキャッチーだね。うん、良い感じになると思うよ」


 武夫は今聞いたばかりのメロディーを土台に、よりクリスマスソングっぽく即興でアレンジしたメロディーをギターで奏でた。


「おー、おー、さすがタケっち」

「うんうん、クリスマスってイメージがより鮮明になってる。でも、そのアレンジだとちょっとだけ歌詞の言葉尻を変えた方がいいかな」

「そうだね、俺の方も数パターンアレンジを試してみたいから、雅美ちゃんも歌詞の方をもう少し練ってみて」

「わかった、やってみるね」


 時期的にはもう遅いくらいだが、レコードが売り出されるちょっと前に山根さんからクリスマスソング制作のリクエストが入っていたのである。


 間に合わなくてもいいからやれるだけやってみてというお願いだったが、今週中にでき上ればレコーディングをして売り出すにことは間に合わないだろうけど、ラジオのオンエアに乗せることはできるだろうからということだった。


 クリスマスソングはその時期になると数年間は売り上げが見込めるコンテンツらしく、今年は間に合わなくても来年以降に期待できると山根さんは力説していた。


 それはさておき、二人だけの世界入ったかのように話をしている武夫と雅美を、友子はニマニマと眺めるのだった。

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100話到達記念SSを投稿しました。内容は雅美が父を亡くしてバンドに加入するまでの雅美視点でのスピンオフ短編です。

転校したらスパダリさんに出逢った

このリンクから飛べますので興味がおありの方はどうぞお読みください。
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