初めての異世界 顛末
気が付くと、目の前にでかい蜘蛛がいた。私を足でがっしり捕まえて、首を少し傾けている?不思議に思っているのだろうか?
だんだん思い出してきた。
私は蜘蛛につかまって、死にかけていたんだった。
そばにステータスが落ちているのを目を凝らしてみてみる。
ホシノ ミコ
職業【寵児】
Lv:15
HP9/30
MP9/35
筋力:49
魔力:54
速度:45
防御:58
抵抗力:61
【スキル】
:【母国語】Lv.3【毒耐性】Lv.5【経験値アップ】Lv.4
レベルが妙に上がっている。
…?
身体をよじって足元を見てみると、蜘蛛の足の破片が散らばっている。あっ踏んだのか。
死にかけている際に抵抗して、蜘蛛を倒した時にレベルアップらしい。
私を捕まえている足のうちの一つを掴み動かしてみると、おお。レベルアップして’筋力’が上がったから、ちゃんとずらすことが出来た。
が、すぐ他の腕でカバーして戻される。
たぶん、筋力ではこっちの方が上だけど、腕が八本ある分で拘束力が上なんだろう。
どうしよう。このままではここから逃れられない。また牙で刺されて、今度は本当に死んでしまう。
そう考えているうちに、蜘蛛の顔に自身の身体が引き寄せられるのを感じる。まずい。
牙を指でつかみ抵抗するが、じりじりと近寄ってしまう。
なんとか前の傷跡にもう一回つくことだけは避けることはできたが…
(もう死んじゃうかな…)
と考えていたが、鎖骨の上のあたりのところを強く押されるような感触がするだけで、肌を貫く感じがない。痛いものは痛いが。
あっちの’筋力’をこちらの’防御力’で大きく上回っているから、あっちの攻撃が私にダメージをあたえられないのだろう。
こうなれば私にも勝つ見込みが出てくるというものだ。
腕の一本を掴み、押したり引いたりひねったり、形状的に力の集中する位置を探しながら動かす。
ちょっとずつ、甲殻にひびがはいったりして、なにか不調が出始めていることをうかがわせる。
他の腕で邪魔しようとしてくるが、そこだけなら掴み続けられる。
やがて八本のうちの一本が千切れとび、更にもう一本。力一杯握っている手を開かせているように、蜘蛛の腕を一本ずつもいでいく。
やがて八本の腕を六本ほどまで削り落とした時にアラクネスが動かなくなった。
その時にすでに勝利したと思われるのだが、私は何にも気が付かずに全部の腕を落とすまでやめることは無かった。
興奮のあまり、足を一本もったままギルドに帰り、通行人を驚かせることになってしまったのも、追記すべきことかもしれない。
ホシノ ミコ
職業【寵児】
Lv:21
HP13/38
MP9/41
筋力:56
魔力:63
速度:54
防御:72
抵抗力:69
【スキル】
:【母国語】Lv.3【毒耐性】Lv.5【経験値アップ】Lv.5
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あ、あと薬草採るのも忘れた。やばい
「お疲れ様です。初めてでしたし、まだ許容範囲でしょう。次の依頼では失敗しないようにしてくださいね」
採り忘れてお前は薬草も採れないのかと怒られるかと思っていたが、初回はセーフだということだった。まあ、依頼に失敗したからお金がないという最も重要なことは変わってないが…
「おう小娘!初めての依頼ご苦労だったな!ギルドには寮があってな。食堂もあるから今日はそこで食っていくといい。明日また来い!次の仕事を紹介してやる」
奥からロックさんが出てきて言ってくれた。
あれっ、その心配もしなくていいみたいだ。明日の仕事も用意してくれるみたいだし、ここの人は皆優しい人ばっかりでよかった。
早速寮の一室に案内してもらうことにした。今日はもう休もう。
「良かったですねロックさん、何とか新人が受注した時間と警報発令時間が合わないように調整していましたが、その必要もなくなりました。」
「...」
「アラクネスは誰か高ランク冒険者が倒した後だったんでしょうか。もう死んでいたとは。にしても、アラクネスの足が落ちてたから持って帰ってくるなんて、なんというか、やんちゃな子ですね。」
「…」
「どうしたんですか?さっきから黙ってますけど」
「あの新人、今Lvを見たら21だった」
「21⁉妙に高いですね。冒険を初めたばかりっていう風ではなかったですか?」
「さっき初めて来た時は1だったんだ。アラクネスを倒してレベルを上げたと考えていい。アラクネス一匹じゃそんな上がらないが、別の魔物も色々いたんだろう」
「まさか、さっきのがアラクネスを1人で倒したと...?」
「そうだ。Lv.1で魔物を倒せるというのも。一晩でLv.21になるくらい、Dランクの魔物も含めて討伐可能というのも、冒険者としての高い能力を感じさせる...あれでまだ素人なら、その伸びしろは想像以上に大きい。」
「我らがティグラギルドは、数年前にエースとなる冒険者が去って以降、慢性的な冒険者不足に悩まされている。かつての隆盛は見る影も無くなった。先代からこのギルドを引き継いで以来、ギルドの復興は俺の悲願だったが...」
「あいつを鍛えて一人前にすれば、前のエース、いや全盛期のころの俺にも並ぶほどになる。あいつを足がかりにして、このギルドを復活させてやるぜ!」
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宿をとって夕飯を食べると、ようやく落ち着くことができた。ここに来てから何も食べていなかったからか、ここの食事はとても美味しかった。特に熊肉の煮込みは絶品だった。特産とか何だろうか。
さて、このステータスを見て、少し気づいたことがあるので、それを見てみよう。
ホシノ ミコ
職業【寵児】
Lv:20
HP13/38
MP9/41
筋力:56
魔力:63
速度:54
防御:72
抵抗力:69
【スキル】
:【母国語】Lv.3【毒耐性】Lv.5【経験値アップ】Lv.5
これの、各項目のところを長押しすると、
毒耐性
:一般的な毒に対しての抵抗力を上昇させる。
このように、各スキルについて説明を見ることができる。新しくスキルをしたらしいが...
経験値アップ
:対象個人が入手する経験値を上昇させる。また、スキル獲得・レベルアップに必要な経験値についても同様である。
レベルアップを妙にしていたのは、これのせいだったのか。加えて、毒耐性なるものを入手したのもそうだろう。そんなにすぐ毒耐性なんてついたら、誰も殺せないからね。
寵児
:親の愛を一身に受けている子。比喩的に、時流に乗って、もてはやされる人。
レベルに応じて以下のスキルを獲得する。
Lv.2 経験値アップLv.1
Lv.5 経験値アップLv.2
Lv.7 経験値アップLv.3
Lv.13 経験値アップLv.4
Lv.17 経験値アップLv.5
職業?やっぱり職業じゃないな。説明欄が完全に辞書だし、人で終わってるしな。
職業上の特性としては、ほとんど経験値アップっぽい。どういう職業何だろう?戦闘には向いていると思う…
明日はどうしようかな?薬草採取をしても一日分の食費は稼げる、と言われたが。あのアラクネス、だと厳しいか。もっと楽なのを倒すくらいの簡単な魔物討伐依頼というのはあるのかな?
あったらそっちで暮らしてもいいかもな…
私はやはり疲れていたようで、懐にステータスを抱えたまま、すぐに寝てしまった。