初めての異世界
「なんだあ!?ボロボロじゃねえか!」
小太りの男が声をかけてきた。
そう言われて体を見ると、足が傷だらけになっている。走ってきた道の石や木の枝が無数に刺さっていたのだ。素足でそこらへんの自然の道を歩いていたのだから、それは傷つくだろう。
「ちょっと来い!」
初めての場所で知らない男に声をかけられ、不審に思わないこともなかったが、まだ意識もあいまいな私。言う通りにすることにした。
男について行き、100メートルほど歩くと、周りの建物と比較して一回り大きく豪華な建物についた。
中に入ると、木造りのホテルの入り口のような、ロビーのようになっていた。壁の高いところに大きいトカゲの首が飾っており、横に受付?があった。前には小さい机・椅子が幾つかあり、休憩場所となのだろうか?その前には張り紙が幾つかある。
何か役所のような場所なのか?
「ロックさん、何ですか?この人。」
「ああ、ちょっとそこで拾ってきたんだ。手当をしてやってくれ。」
この男はロックと言うらしい。ここではえらい人なんだろうか?手当をしてくれると言うので、ありがたくしてもらうことにした。
受付をしていた女の人が、小さい木の棒を持ってきて、足に当てるとみるみる足の傷が治っていった。
「あ、ありがとうございます...」
「いえ、仕事ですので。」
足の痛みも落ちついて、今の状況について考えてみることにした。俺は星野蓮、17歳の男子高校生。さっき目が覚める前は、多分駅に居て、それで...
ホームに落ちて
私は多分その時に死んだ、と解釈するのが自然だろうか?
しかし、どうしたものか...ここが異世界かどうかには関係ないが、例えば会社とか、そういう肉体労働じゃない仕事っていうのはなかなかないんじゃないか?この環境だと力仕事とかしかないんじゃないか?自慢じゃないが、体力には全く自信はないぞ。
「小娘、何があったかは知らんが、ここには脛に傷のある連中がたっぷりいる。心配しなくていいぞ。」
そうなんだ。
「ここはギルドと言ってな、まあ何でも屋の公募版みたいなもんで、雑用なら何でもあるんだ。例えば、今なら...」
張り紙をあさり、いくつかの紙を取り出してきた。
「薬草採取 難易度F 未経験者可」
「下水道掃除 難易度E 未経験者可」
「店番 難易度F だれでも」
「こんな感じで、だれでも受けられるような小銭稼ぎはいくらでもある。ここなら生きていくのに特に不自由はないぞ。」
「適当なのを受けてみるか?一つこなしたら1000プラム…まあ三食分くらいにはなるぞ!」
よかった、生活に不自由はないんだ。心配していた悩みの種が解消されて、安心してとりあえず一番最初のを受けることにした。
「おっと、忘れるところだった、これを持たせておく」
そういうと、長方形の板を持たせてきた。
「これは?」
「なんだ、知らないのか。まあ普及したのは最近だからな。人の能力を数字で表すことが出来る板だ。ステータスと呼ばれている。それぞれの筋力や魔力等の能力、職業、スキル等が表示される。」
「??魔力??職業?スキル?」
「それも知らないのか。魔力は魔法を使う時に必要だろ。職業はみんな生まれた時に知ってるはずだろ?まあ他の時に教会にでも行って変わってるかもしれないが。スキルは、各人が持つ能力がある程度まとまって表示されるものだ。」
「とりあえず見てみろよ。大体要領がつかめるはずだ。」
とりあえず自分のステータスを見てみることにした。
ホシノ ミコ
職業【寵児】
Lv:1
HP6/6
MP9/9
筋力:7
魔力:9
速度:6
防御:14
抵抗力:12
【スキル】
:【母国語】Lv.3
私にできるのは母国語だけ!?一応、ピアノは習ってたんだけどな…
それに、この職業はなんだ?職業じゃないだろ…
「見れたか?そんな感じで、自分の情報がみられるんだ。まあ戦うとかしないならそんな見ることもないと思うが、この前たくさん配られて余ってるんでな」
いっぱい余ってるのか。自分のステータスがあれだったからショックだけど、今後参考になるかもしれないから、まあいいや。
「ちなみに、他の人のを許可なしに見ようとするとちょっとしか見られないぞ。こんな風に」
ロック・グライン
職業【クルセイダー】
Lv:42
HP980/---
MP50/50
うわっ、私のステータス、低すぎ?
「はっはっは!俺のは規格外だから気にしなくていいぞ!一般人ならスキルなんてないし、HPも20が関の山ってとこだ!」
…まあいいか。
とりあえず、薬草をとりに行こう。自分のステータスで落ち込むより、まずは食い扶持を確保しなければ。
「今は12:00か…一応、日が落ちる前には帰って来いよ!」
ギルドから離れて、近くの森に来た。この森はボロの森というらしく、広さの割に魔物がほとんど出てこず、一般人が何かを取りに行くにはちょうどいいらしい。自分としては力に自信もないし、もってこいな場所で早速きたが…
「どこだここ?」
広すぎる上に、草が生い茂りすぎて辺りが全く見渡せない。いくら歩いても全く景色が変わらないから、正直参ってしまった。そのくせ、依頼の薬草も見つからないし。まあ魔物は出てこないというからゆっくり探せばいいが…
「ロックさん、魔物警報が出てるところでの難易度の情報補正があったと思うんですが、その依頼書ってどこにありますか?」
「あー、こっちにまとめてあったと思うが…あれ?さっきぐちゃぐちゃにしたかもな」
「ちょっと、勘弁してくださいよ。今回の警報はボロの森、危険度Fで一般人も立ち入る場所なんですよ?しかも出たのは一体の討伐でDランクのアラクネス、依頼書の修正が遅れると死人が出ますよ」
「ボロの森」
「そうです。あの安全で、よく薬草採取に一般人が出かける」
「…」
「何黙ってるんですか?もしかして何かありました?」
「……さっきの小娘にそれ渡しちまった」
生い茂る草をかき分け、何とか進んでいくと何か先に光るようなものが見えた。
(さっき見せられた薬草の画像に、ちょっと光るとか書いてあったような気がする)
いい加減帰りたいという気持ちも相まって、ちょっと頑張ってかき分けて進むと、ふとどこかに抜けたような感覚があった。群生地や何かに突き当たったのかと思い前を見ると、
そこには私の何倍かはあるだろう、という大きさの蜘蛛がいた。
懐にしまってあったステータスがチラリと見える。
アラクネス
職業 対象外
Lv:25
HP135/135
MP0/0
筋力44
魔力:33
速度:127
防御:23
抵抗力:22
【スキル】
:【産卵】Lv.5【毒牙】Lv.3【拘束】Lv.3【高速孵化】Lv.1【縮地】Lv.1
そうか、これは魔物のものなら許可が無くても全部見えるんだ…
目の前にいる蜘蛛は、いくつも卵を産み、それがみるみるうちに孵っていく。
クモトラス
職業 対象外
Lv:1
HP1/1
MP0/0
筋力3
魔力:1
速度:5
防御:1
抵抗力:1
【スキル】
おっ、こいつには勝ってる。さっきのおじさんにでっかい蜘蛛の魔物にも負けてたから、これは気分がいいなあ。
あっけに取られているうちに、クモトラスがまとわりついて来て、身動きが取れなくなる。
そして、アラクネスが近づいてきて…
私の身体に毒牙を突き立てた。
痛い。
尋常じゃないくらい痛い。蜘蛛に触られて生理的な嫌悪感があるが、正直それどころではない。痛すぎる。痛すぎて目の前がチカチカしてきて、体が思うように動かない。
アラクネスは牙をむき出しにし、もう一度私に突き刺そうとしている。二回目はもう死ぬだろう。さすが痛い。死ぬ。正直、確かさっき死んだような気がして、何か夢を見ていたような感じに思っていたが、全然違ってる。余裕で死ねるしめちゃくちゃ痛い。助けて。
襲われた拍子に転げ落ちたのだろう、ステータスが地面に落ちていた。私はその時は知ること等できなかったが、今振り返ると、おそらくそこにはこう表示されていたのだろう。
【レベルアップしました。】