ヴァンパイア狩り
気がつくとまたベッドの上だった。
「ツェペシュ……ツェペシュ!」
勢い良くベッドから起き上がる。しまった。貧血からの立ちくらみでその場に突っ伏す。
「ツェペシュ……!」
「おや、起きたのかい?まだ寝ていないとダメだよ。」
それは知らない老婆だった。ツェペシュは使用人はいないと言っていたのに?目覚めたそこはツェペシュの城ではなかった。
「あの、ここは?貴方は?」
「ああ、私はマリサ。ここは私の家よ。」
「あの、ツェペシュ!ツェペシュは?!」
「ツェペシュ?誰の事?あなたは私の家の前で倒れていたのよ?」
「え?!」
マリアは窓の外を見た。そこは森のすぐ近くにある村だった。
「ごめんなさい!お婆さん!私っ!いかないと!」
マリアは森へと行こうとした。
「どこに行くんだい?もうすぐ暗くなる。暗くなればヴァンパイアに襲われてしまうかもしれないんだよ?」
「いいの!それで!」
「おやめなさいな。いいからここでじっとしていなさい。それに今夜はヴァンパイア狩りらしいからね。危ないから出ていってはいけないよ?」
「ヴァンパイア、狩り?」
「ええ、なんでもお城の王子様が結婚するはずだった女性を殺されて、王子はカンカンだそうだよ。そこで王が今夜森へとヴァンパイア狩りを連れて狩りにいくそうなんだ。」
「っ!?」
きっとツェペシュはそんな事知らない。このままではツェペシュが危険かもしれない。
「行かなきゃ!」
「どうしてもいくならこれを!」
老婆が差し出したのは銀のナイフだった。
「ありがとう。」
マリアはそれを受け取ると森へと走った。ツェペシュのお城まで走る。途中で幾つもの松明の火が見えた。
ツェペシュ!無事でいて!
「ツェペシュ!」
マリアが城まで付いた。急いでツェペシュの部屋へと急ぐ。
「ツェペシュ!」
「っ!マリア!?何故…」
「ツェペシュ!大変なの!ヴァンパイア狩りがっ!」
「ヴァンパイア狩りだと?」
そう言った瞬間兵士が城へとなだれ込む。
「馬鹿な人間共め。だが、ヴァンパイア狩りは厄介だな。」
「ツェペシュ!逃げましょう!」
「……そうだな。俺1人ならともかく。お前が…」
「へ?」
ツェペシュ、今私の心配を?
ツェペシュはマリアに手を伸ばす。ツェペシュはマリアを隠し通路へと放り込んだ。
「ツェペシュ?!」
「お前は逃げろ。俺はこの城を守る!」
「そんなっ!一緒に!」
「一緒にはいけない。」
そう言って隠し通路の扉を閉じた。
「ツェペシュ!!」
どれぐらいたっただろう。しばらくして扉が開いた。
「ツェペシュ!」
「マリア、逃げてなかったのか。」
ツェペシュは血まみれだった。
「あなたを置いていけないわ!それより怪我が…」
「馬鹿め、もう演技はいいんだ。俺を好きだと言う演技をして逃げる算段だったんだろ?」
「それは……」
マリアはツェペシュの血を止める為にドレスを破いた。ツェペシュの血は止まらない。
「ツェペシュ!私の血を……」
「いいから逃げるぞ。俺は、負けたんだ。」
ツェペシュは扉を閉めてマリアを担いで逃げる。逃げた先は荒れた館の前だった。
「ここは?」
「知り合いの、屋敷だ。」
そう言うツェペシュはそこで力尽きた。生えている木の下に持たれかかる。
「ツェペシュ!しっかり!血を!のんで!」
「……いらない。」
「どうして?!早くのんで!」
ツェペシュの口に手首を差し出す。だが、ツェペシュは吸わない。
「どうして?!」
「言っただろ?お前の血なんて吸う価値もないって……」
「でも、このままじゃ、ツェペシュが!」
「早く俺から逃げろ!」
「いやよ!ツェペシュ!私!ツェペシュの事がっ……!」
言いかけた口をキスで塞がれてしまった。
そんな事されたらもう、抑えられない!
マリアは持っていた銀のナイフを取り出した。
「……それで俺を殺すのか?」
ツェペシュは死を覚悟し、目を閉じた。しかし、次の瞬間口の中に血の味が広がる。マリアは自分の手首を切って口に含み、ツェペシュに口移しをしたのだ。
「っ……マリア。」
「ツェペシュ、死なないで!」
そうしてツェペシュはマリアの血を飲む。その後、なんとか止血する事ができた。安心したマリアは
「よかっ……た……」
と言って意識を手放した。