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快楽の行先

ヴァンパイアと、いや、ツェペシュと出会って1週間が過ぎた。マリアは身も心も彼に染められいく。彼の牙は私のものだ。そう思ってすらいたのに……。


「ツェペシュ?どこへいくの?」

ツェペシュが外にでる準備をしていた。


「女の血を求めにいくのだ。」


「……どうして?私がいるでしょ?」


許せない。私以外の血をすするなんて。



「……そうだな。だが、吸いすぎて死なれても困る。」


そう言ってマリアの頬を大切そうに撫でた。


「俺の餌に死なれては困るからな。」


「いや、行かないで!」


気がつくとツェペシュにすがっていた。



「……すまない。」


そう言ってツェペシュはマリアを振りほどいていく。


なんだろう。最初はただの演技だったのに、気がつくと彼の牙なしでは生きられない程に彼から与えられる快楽を欲してしまっていた。違う。分かってる。


「ツェペシュ。」


復讐を手伝って怪我まで追わせてしまった。その負い目から彼を想ってしまった。なので、優しくされると心が痛い。そして、少しだけ、鼓動が早くなる。


いや、それも違う。あんな、化け物を、いや、化け物だなんてもう思っていない。本当は、心を開いてくれる事が嬉しくて……。


いけない。こんなこと思うべきではない。そう言い聞かせた。でも、もう逃げる事なんてどうでもいい。逃げられない。快楽に溺れているから?否、彼に負い目を感じているから?否、本当は……。


こんな気持ちになってしまってはいけない。きっと彼への負い目がそうさせるのだと言い聞かせる。


彼が帰ってくるのを玄関で待っていた。彼が帰ってくる。彼は驚いた。


「逃げなかったんだな?」


「……ええ。だって、もう欲しいのですもの…」


そう言って首筋を、差し出す。


「……俺は今日はもういい。」


「どうして?!どうして吸ってくれないの?!」


「今は空腹ではないから…」


「そんなに他の女がよかったの!?」


何言ってるんだろう。これじゃまるで……。


「……妬いているのか?」


赤面する。そうだ。妬いている。でもそんな事言えない。だって、私は人間で彼はヴァンパイアだ。餌に恋なんてしないだろう。

ツェペシュは黙ってマリアの頬を撫でた。触られたところが赤くなり、高揚する。


「本当に俺が好きらしいな?」


なんて笑っている。


「ち、違っ!」


その言葉は唇で塞がれた。

嘘だ。私、今キスされて……。始めてを奪われる。嫌なのに抗えない。いや、いやではない。本当は、嬉しくて……。彼の唇が離れた。


「そんなに吸ってほしいのか?」


「あ、えーと、ええ。」


違う。


「快楽に堕ちたか、人間。」


それまでの優しい目から冷たい目に変わり、そう言われる。少し悲しくなった。違う。


「ええ、そう。」


違う。分かってるでも、こんな気持ちになるなんておかしい。きっとあれだ。ストックホルム症候群だ。それか本当に快楽に溺れているのかどちらかだ。そう言い聞かせて自分の気持ちを握り潰そうとした。


ツェペシュはマリアを抱き寄せると首筋へと顔を近づける。


「もっと、気持ちよく、して?」


そうだ。それでいい。そう言い聞かせる。だってこんなの私の圧倒的な片思いだもの。いやだ。きっと拒まれる。また、王子のように……。それが怖くて嘘をつく。



「……興ざめだな。」


そう言ってツェペシュは血を吸ってはくれなかった。嫌われただろうか?


ツェペシュはそのまま自室へと帰ってゆく。


「まって!」


「逃げるなら好きにしろ。お前のような女、吸うに値しない。」


「吸わなくても、いいからっ!」


そう言ってツェペシュへと追いすがった。


「いかないで!」


「……」


ツェペシュはいきなりマリアを姫抱きした。


「きゃ?!」


そしてそのまま自室のベッドへと落とす。


「脱げ。」


「へ?」


「いいから脱げ。」


「そ、そんなの無理よ。」


ツェペシュはそのままマリアへ手を伸ばした。首筋には沢山の牙の跡が残っている。


「こんなに淫らなのに何を恥ずかしがっている?」


確かにそうだ。でも、好きな人の前で服を脱ぐのは恥ずかしいものである。ツェペシュの手が太ももを掠める。


「あっ」


そしてそのまま太ももから吸血された。羞恥と痛みが身体中に走る。


「これで、満足か?」


「ええ」


ツェペシュは冷たい目でそのまま部屋から出ていこうとした。


「待って!脱ぐ、から…」


そう言って服を脱ごうとしてマリアをツェペシュは止めた。


「それより、クッキー、また作ってくれるか?材料は準備する。」


「え、ええ!」


嬉しかった。ツェペシュの役に立てる事が。厨房でクッキーを作る。クッキーが焼けた。焼けたクッキーをツェペシュの自室へと持ってゆく。ツェペシュにクッキーを渡そうとするとツェペシュは食べさせろと言ってきた。


「そ、そんなこと…」


「いやか?」


恥ずかしがツェペシュの為なら…。そう思ってクッキーをツェペシュに食べさせる。するとツェペシュは指を吸血してきた。クッキーと血が混ざる。


「うまいな。では、礼だ。」


そう言ってツェペシュは腕から血を吸った。違う。私の欲しいのはそれじゃない。


「ツェペシュ、私……」


「気持ちいいか?」


「え、あ、ええ。」


ツェペシュは満足したと言う顔をして吸血をやめた。


「これからも吸ってくれる?」


ツェペシュが求めてくれるなら……もう、それで……。


「……これで終わりだ。」


「へ?」


そう言ってツェペシュはマリアをベッドに抑えつけた。ああ、そうだ。忘れたいた。この人はヴァンパイアなのだ。ツェペシュは冷酷な目でマリアを睨みつけてそのまま首筋に手を伸ばした。そして牙を突き立てる。今までに無いほどの痛みが走る。痛いなんてものじゃない。悶絶する中、必死にツェペシュに手を伸ばして抱き寄せた。


「ツェペシュ……好き。」


それが覚えているの最後の言葉だった。

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