痛みの矛先
ヴァンパイアは毎日、マリアへの吸血をやめようとしない。
どうしてこんな目に遭わなくてはならないのだろう?それもこれもあのかなでのせいである。
マリアはコップの水に写る自分を見た。首筋にはいくつのも牙の跡が残っている。
いやだ、いやだ!こんなのいやだ!逃げなくては!でも、どうやって?
牢屋には通気口すらない。完全な密室なのだ。なんとかここから出して貰わなければいけない。それには……。
牢獄にヴァンパイアがいつものように現れる。
「おい、腹が減った。飲ませろ!」
「……は、はい…。」
従順であること。これしかない。ヴァンパイアが今にも血をすすろうと首筋に牙を立てようとした。
「あの!料理は食べないんですか?」
「は?」
ヴァンパイアはまさかの質問に呆気にとられる。
「料理?そんなものしばらく食べていない。使用人がいないからな。」
「どうしていないんですか?」
「……昔は人間との共存していた。その時は使用人も何人かはいたんだ。だが、人間が俺達を裏切った!」
「裏切った?」
「……そうだ!お前達は俺達を駆逐しようとした!」
「……ヴァンパイア狩り。」
ヴァンパイア狩り。話には聞いた事がる。その昔ヴァンパイアを悪と見なし、駆逐しようとした人達がいたと聞く。今でもヴァンパイア狩りがいると噂できいた。
「だから、人間は俺達のただの餌だ!そう思っている!」
そう思うことによって、彼は裏切られた過去のことを清算しているのだろう。
「話は終わりだ!!」
ヴァンパイアはマリアに襲いかかる。
「きゃっ?!」
マリアはまた冷たい床で吸血されそうになった。
「まって!話をしましょう!」
「人間と言の葉を交える必要なんてない!黙れ!」
ヴァンパイアの鋭い牙が首筋を通る。
「ああっ?!」
マリアは痛みのあまり声を上げる。彼にとっての心の痛みの矛先は人間だ。なら、今の私と同じではないだろうか?痛みに耐えながらマリアはそう思った。
ああ、人間が憎い!あの女さえいなければ!私は公爵令嬢、行く行くは王妃になれたのだ!こんな冷たい床の上でヴァンパイアに襲われることもなかった!そして誰も助けに来てはくれなかった!!人間が憎い!!
かなでへの怒りは人間への怒りへと変わってゆく。
「……っ」
ふと、ヴァンパイアが吸血を止めた。
「……痛むのか?」
気がつくと両目から涙があふれていた。ヴァンパイアはそっと涙を舐める。
「涙までうまいな。」
拭ってくれたのだろうか?ヴァンパイアはそういうと牢屋からでていった。マリアは1人牢屋で泣いた。そして復讐を誓う。
「ああ、神よ!誰も私を、いや、神さえも私を救わないっ!なら!他ならない私自身が人間に復讐してやる!!」
そう金切り声で叫ぶのだった。