VSスミスウェッソン 3
クリッシュちゃんとの戦いにおいて、ルガーが持つガンロッドを破壊した。
あるいは、この戦闘において、スミスウェッソン本体を守護するスピアが、ケンジにより破壊された。
……現状、俺たちがハイヒューマンの操るOTへ与えられたダメージはといえば、この程度である。
要するに、武装を破壊するのがせいぜいで、機体本体に対しては、かすり傷一つ与えることができないでいたのだ。
こうなってしまうと、一つ気になることがあった。
果たして、今後こちらのビームなりブレードなりが直撃した時、ちゃんとダメージが入るのか、どうか……。
何しろオーバーテクノロジーの固まりみたいな連中であるので、「秘密の超合金製だから大丈夫デース!」となる可能性も想定はしていたのである。
それが今、実証された。
奴から見れば、背後から放たれた一撃……。
俺まで巻き添えになるのを防ぐため、通常のビームライフルと同等程度の出力に抑えられた一撃を受け、確かに、スミスウェッソンの左脚が破壊されたのだ。
人間でいうふくらはぎの部分を覆っていた分厚い装甲は、無残に溶解し内部機構をさらけ出している。
そうして露わとなった関節稼働機構やスラスターに連なる機構もまた、バチバチとスパークして機能を落としているようだった。
「……上手くいきましたね」
笑みを浮かべながら、敵機の直上へ回り込む。
同時に、スマート・ウェポン・ユニットとして追従する専用ビームライフルに、射撃を行わせたが……。
「やはり、そうそう当たるものではありませんか」
一般的なPLのそれに比べて大出力な荷電粒子ビームは、ステップめいた……しかし、確かにぎこちなくなった挙動で回避される。
そこへ襲いかかるのが、左脚を破壊したのと同じ方角から放たれる三点射。
今度は射線上からティルフィングが離れているため、遠慮のない連続射撃だ。
『――ぬううっ!?』
これを、スミスウェッソンは右肩のアーマーで――防御。
黄金の砲撃機が肩に備えたアーマーは、分厚く堅牢な造りであり……。
これまで、ショルダータックルによって、相対した敵機に大打撃を加えてきた。
だが、それでも灼熱の重金属粒子を浴びてしまっては、分が悪いということだろう。
三条のビームがアーマーに直撃し、これを爆ぜさせ、溶解させていく。
瞬間的にアーマーを切り離したのは、敵ながら見事な判断力。
もし、それが遅れていたならば、巻き込まれて右肩の関節構造や、同部位に背負うメテオバズ砲口部も破損していたかもしれない。
だが、これで避けきったと思うなら、そうは問屋が卸さない。
さらに別の角度から、赤と青の紫電すらまとった大出力ビーム……。
艦砲級の荷電粒子光線が、スミスウェッソンへと襲いかかったのだ。
『――むううっ!?』
先の三点射は、事前に左脚への直撃があった分、まだ予期できた。
だが、今放たれたこれは、全くの不意打ち。
スミスウェッソンは、どうにかビームそのものは回避したが……。
破壊範囲を広げるため、ビーム本体の周囲へ飛散させられている粒子が左腕部へ直撃し、穴だらけの状態にする。
敵の左脚と左腕はもう、使い物にならない。
作戦成功だ!
『お嬢様、これは……!』
通信ウィンドウに、驚いた顔のユーリ君が表示された。
彼が驚くのは、無理からぬこと。
なぜなら、これは……。
『……グラムのスマート・ウェポン・ユニットか!』
攻撃してきたモノの正体に気付き、ロブが忌々しげな声を吐き出す。
そうなのだ。
「驚いたでしょう?
グラムのビーム・ポッドをハーレーから射出させていたのは、ユーリ君にも内緒でしたから」
協力してくれたのは、IDOLが誇る整備班。
父ウォルガフが集めた精鋭と、彼らの手によって鍛えられた元海賊のメカニックは、俺のオーダーに見事応えてくれた。
すなわち……。
『……スマート・ウェポン・ユニットの紐付け先を、ティルフィングの方に移していたとはな』
「付け加えるなら、最初の一撃はスミスウェッソンを狙ったのではなく、ティルフィングの位置情報目がけて発射させました。
より確実かつ、正確に初撃を命中させたかったですからね」
解説しながら俺が浮かべるのは――笑み。
何しろ、今語った通り、ティルフィング本体に向けた自爆攻撃というのが真相だ。
タイミングをミスったり、察知されて回避されたりしたら、こちらが大ダメージ。
賭けに近かったが、どうやらそれに勝った。
バニーガールなんかやったから、幸運の女神がヒイキしてくれたのかもな!
『お嬢様、なんて無茶を……』
「無茶なものですか。
相手は、遥かに格上……。
こうでもしなければ、意表を突くことができません」
左腕部一体型のロングボウにライトニング・アローをつがえ、援護位置についたユーリ君に対し、笑顔で告げる。
彼も、分かっているのだろう。
文字通り、敵を騙すにはまず味方からということで、自分が騙された……。
より正確には、必要な情報を隠匿されていたのだと。
『……ハイヒューマンの弱点ですね。
通常の人間を相手にするにせよ、同じハイヒューマン同士で戦うにせよ、持ち得る手札は開示された状態となる。
だから、想定外の不意打ちに弱い』
「しかも、今回はわたしとユーリ君がタッグを組む形のセットアップだった。
ますます、ユーリ君から得られる情報が全てだと誤認してしまう」
これがもし……。
俺との一対一であったなら、こうも上手くはいかなかったはずだ。
何しろ、俺はハイヒューマンの読心能力を無効化できるからな。
普通に伏せ札を警戒され、回避されていた可能性は高い。
だが、そこに何も知らないユーリ君が配置されていたことで、かえって惑わすことに成功したのであった。
『ともかく、これでもう、格闘戦に対応できる状態でもありません。
ロブさん……お願いですから、投降してください』
構えた弓矢は、スミスウェッソンに向けたまま……。
やや悲痛さが感じられる声で、ユーリ君は降伏勧告したのである。
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「ふん……。
まずは、見事だったと言っておこう。
こうまで綺麗にしてやられたのは、初めてのことだ」
コックピット内で腕を組みつつ……。
ロブはまず、戦士として敬意を表した。
見ようによっては卑怯な不意打ちであるが、向こうからすれば、出し得る全てを費やしての策だ。
そもそも、これは機動兵器を用いた実戦であり、卑怯も何もあったものではない。
自分をここまで追い込んだ事実に、感心すべきであろう。
「そして、認めよう。
左脚も左腕もまともには動かん。
この状態では、いささか不利であると」
コンソールに表示された機体のダメージは――深刻。
共に間接駆動系の中枢が破壊されており、もはや人型機動兵器としての要項を満たしていない。
いまだティルフィングとの距離は開ききっておらず、向こうの機動力を加味すれば、すぐに接近戦へ移行することも択に入っていることだろう。
いささか、という言葉が、明白に強がりである状況……。
それでも、ロブは落ち着いた声で答えたのだ。
「だが、私の答えは何も変わらん。
徹底的に戦い抜き、あのラスベガスとかいうカジノシップを消滅させるだけだ。
中にいる銀河皇帝もろとも、な」
その言葉は、自身でも驚くほどの自然さで吐き出せたのであった。
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