ロマーノフVSヴァンガード
「他人の機体がうらやましくなるなど、いつ以来か。
まさか、このティルフィングがまるで追いつけんとはな……!」
冷静に相手の動きを見据えつつ、ウォルガフはそうつぶやく。
鉄の男――ウォルガフ・ロマーノフ。
その異名にふさわしく、かつてない強敵を前にしながら、眉一つ動くことはない。
どこまでも、冷静に……。
さながら機械のごとく、相手を見定めるだけだ。
そんな彼が操る専用機こそ――ティルフィング。
機動性と人型機動兵器としての汎用性を追求し、四つものスマート・ウェポン・ユニットたりえる兵装まで備えた攻撃的なPLである。
その頭部は、軍帽を被った兵士のごとくいかつく、見る者によっては凶悪さを感じるものであり……。
そこに備わったカメラアイが赤光を放つ様は、狩人が獲物を追い立てる際に放つ眼光のようであった。
ティルフィングが狩人だとするならば、随伴する黒騎士団が操るトリシャスは、さながら猟犬か。
実際の話として、だ。
大型ブースター・ポッドじみた胴体に先端部がビームガンとなっている腕部を取り付け、脚部も逆関節型。
人型機動兵器としての汎用性を保証するマニピュレーターすら存在せず、高速戦闘にのみ特化した姿は、四足獣じみた印象を与える。
本体の大分部をブースターにするという思い切ったビルドにより、こと宙間機動力に関していえば、ティルフィング以上。
それが合計九機、抜群の連携でもってあらゆる角度から追い立て、存分に相手を疲弊させていく……。
そうしたところで、フィニッシュを飾るのがティルフィングだ。
これこそが、鉄の男と黒騎士団とで編み出した必勝形……。
今のところ、銀河でこの戦法を破れた者は存在しない。
果たして、あのベレッタとかいう機体は、それを成し得た最初の一機となるか、どうか……。
――見極めてやろう。
心を読めるのならば、存分に読むがいい。
そのような意思を込めて、心中宣言する。
同時に、忠実なる配下たちへオーダーも下した。
「ライアム、マテオ、イワンは三時の方向から追い立てろ。
ノア、アルジュン、ジュリアンは六時から。
タケシ、アリ、カールは、おれと共に直上を抑えるぞ。
……そろそろ、奴のスピードに目も慣れてきただろう?
ロマーノフ大公家の力、見せつけてやるぞ」
――オッケイ!
黒騎士たちが、力強く答える。
同時に、ウォルガフの命を遂行すべく速やかなアサルト・コンバット・パターンが展開された。
三手に分かれ、まずは挟撃する形で相手を抑える。
そして、最後に直上を抑え、真下の敵へ致命打を与えるのだ。
背部のブースターから、爆発的なプラズマジェット噴射を行う六機の猟犬たち……。
それらが、黄金のガンマン相手に挟み込むような動きとなる。
無論、ベレッタ側も黙って攻撃を受けるようなことはしない。
右の拳銃は逆手に……。
左の拳銃は順手に……。
特徴的な保持の仕方をしている二丁のハンドガンで、両側に迎撃の射撃を行ったのだ。
驚愕すべきは、その――火力。
たかが拳銃による射撃が、まるで艦砲……。
こちら側の技術力では考えられないほどの高出力で、荷電粒子の奔流が放たれているのであった。
ただ、それだけならば、戦闘開始からここまで幾度となく見せられており……。
ウォルガフも黒騎士たちも、問題なく対処できている。
要は、当たらなければいいということ。
通常のビームより範囲が広かったとしても、ティルフィングとトリシャスならば、問題なく対処可能であった。
通常の射撃ならば、だが。
「ほう……。
照射し続けるか」
敵が見せた新たな攻め手に、感心の言葉を漏らす。
通常、PLが携行する火器のビームというのは、切れ目がある。
本体を冷却するためであったり、エネルギーの節約を図るためであったりと、理由は様々であるが、水を垂れ流すホースのような挙動はしないものであった。
そんな当たり前を、オムニテックと呼ばれる機動兵器が覆す。
黄金のガンマンが、両手を交差させながら放った射撃……。
艦砲級の出力を誇るビームが、絶え間なく照射され続けているのだ。
しかも、ただこれを直線上に撃ち続けているだけではない。
照射しながらも、ベレッタ本体がスピンのような回転をすることで、より広範囲にビームの破壊を撒き散らしているのであった。
『――おおっ!?』
これが、マテオのトリシャスにダメージを与える。
反応しきれなかったビームに、脚部の先端が触れてしまい、右足が失われたのだ。
いや、これを触れたと表現するのは、語弊があるか……。
破壊された脚部先端とビームの間には、二メートルほどの間が開いていた。
しかし、ベレッタが照射するビームの超高熱は、その距離を隔ててもPLの複合装甲にダメージを及ぼしたのだ。
ユーリ少年が設計したグラムのように、わざとビームの収束率を下げ、飛散粒子による攻撃の広範囲化を狙っているわけではない。
熱光線として問題なく収束しきっていながら、これほどの攻撃範囲もキープしているのである。
もし、直撃したのならば、戦艦クラスの多重複合装甲であってもたやすく貫通されることだろう。
「マテオ、被害を報告せよ」
『右足をやられましたが、戦闘継続に支障はありません』
ダメージについて尋ねると、スペイン系の黒騎士団員が冷静に答えた。
確かに、初見では驚かされた。
が、ここからは問題なく対応できるという自負を、その声音から感じ取れる。
実際、脚部の役割をランディング・ギア程度にしか捉えていないトリシャスの場合、ここが宇宙空間だということもあり、いささかのダメージにもなっていないのだ。
「各機、敵の武装を拳銃と思って侮るな。
あれは、戦艦の主砲を両手に携行しているものと思え」
――オッケイ!
ローリング砲撃により陣形を乱された黒騎士団が、再び包囲殲滅の陣を敷く。
それに対し、スピンしながらの照射を続けているベレッタは、照射角度の変更などを織り交ぜることで対処してきたが……。
『その程度の攻撃を受ける黒騎士団ではないぞ』
ウォルガフにとって戦場での腹心であり、黒騎士団団長を勤めるカール・スノンスキー大佐が冷徹な声音で告げた。
彼の言葉を裏付けるように……。
先ほどは不覚を取ったマテオも含め、全員が巧みな機動により、熱閃の照射を潜り抜けている。
機動力で上回られていることから、いまだ包囲は完成していないが……。
いかに高出力であろうとも、たかだか二丁の拳銃による砲撃など、もはや受けることはないと確信できた。
――いける!
――我々の力は、圧倒的にテクノロジーで上回る相手にも、十分通用するのだ。
驕りでも、油断でもなく……。
ウォルガフを含む全員が、正しい認識としてこの事実を共有する。
そう、この認識は正しい。
今、この瞬間に至るまでは、の話だが。
『ふむ……ギアを上げるとしよう』
全領域のオープン通信を通じて、ベレッタのパイロットがそう告げる。
すると、だ。
トリシャスたちに追いかけられ、ローリング照射もやめたベレッタの機体が、突如として消失した。
この宇宙から、存在そのものが消えたのか?
……そうではない。
ここまででも瞬間移動じみたスピードを見せていた機体が、さらにその速度を増し、一瞬にしてウォルガフら四機の中心部へと踏み込んでいたのだ。
恐るべきは、より距離的に近く、自身を挟撃しようとしていた他の六機ではなく、あえてウォルガフらの方へと襲いかかってきたこと……。
『楽しませてくれよ』
放たれたのは、やはり――艦砲級のビーム。
「そちらこそ、な」
十分な余裕をもって回避しながら、ウォルガフは笑みを浮かべていた。
鉄の男は、全力をもってなお足りぬかもしれない相手というのを、初めて目にしたのだ。
そして、そのような敵と邂逅するのは、戦士にとって喜びなのである。
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次回、またカミュ側の視点に戻ります。
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