明かされる秘密 後編
「と、とにかく、一度ボクに最後まで話させてください」
話の腰を折る、というよりは乗っ取る形でまくし立てる俺を制し、ユーリ君が懇願するような眼差しとなる。
ううん? 不思議なことを言う子だ。
「どこか、わたしの理解が間違っていましたか?」
「いえ、何一つ間違ってはいないのですが……というか、どうして分かるんですか?」
「どうもこうも、世の中はそういう風にできているものですから!
いやあ、昂ってくるなあ!
そうですね……。
例えば、移民船団に唯一残されていたロボットアニメをモチーフに、魔神の名が冠されたOTとか造ってませんでしたか?」
「い、いえ……そんなものは、造っていませんでしたが……」
「なんだそうでしたか。残念です。
ですがまあ、あのベレッタやルガー……スミスウェッソンを見れば、それも納得ですか。
それに、やはり同スケールのロボット同士で戦った方が絵的にも映えますし、悪くない。
フィリピンVで投入されたファイタービーストの件を思えば、オーバーサイズの機体開発も行われてはいるようですし、望みが潰えたというわけでもないでしょう」
「それはよかったです。
ところで、ですね……」
「で、機体カラーやクリッシュちゃんの発言。
加えて、実際にベレッタとスミスウェッソンが見せた性能から考えると、ゴールドカラーの機体が、遺跡とやらから得られたテクノロジーなり部品なりをふんだんに組み込んだ高級機。
ブロンズカラーが、一般機といったところでしょうか。
こうなると、気になってくるのはシルバーカラーの扱いで、中ボスクラスの人間に割り当てられるのか、はたまた別の扱いが――」
「――お願いですから、ボクの話を聞いてください!」
やや、上目遣いに……。
ユーリ君が訴えかけてくる。
もう……しょうがないニャア。
そんな目を向けられてしまっては、致し方ない。
「ううん、まだまだ語り足りませんが……。
そこまで言うならば、続きを聞きましょう」
「語るというか、お嬢様が一方的にまくし立てていただけの気もしますが、ありがとうございます。
えーと、それでですね。
遺跡がどのような存在であるのかとか、移民船団――ハイヒューマンがその後どうしたとか、遺跡から得られた部品……クリスタル・リアクターのオリジナルを組み込んだのがゴールドカラーで、ブロンズがコピー品を使っているとかは、お嬢様が仰られた通りです」
「やはりそういうことでしたか!」
我が意を得て、力強くうなずく。
「そうでなくては、いけません!」
「ハハッ、そうですね……。
さすがです、お嬢様」
「ムッハハハ! ムッハハハ!」
「というところで、ここからがボク自身の話です」
「あ、そうでした」
言われて、重要なことを失念していたと気付く。
そういや、そうだ。
ユーリ君がハイヒューマンの一人だったとして、なんでまたうちのメカニックをやっていたんだろうか? 潜入工作中ってわけでもないだろうし。
というか、わたしにハイヒューマンの力があるのはなんでだろうか?
『パーソナル・ラバーズ』ゲーム中では語られなかったけど、実はわたしこそハイヒューマンの一員で、悪役令嬢ムーブはあちらに利するための工作活動だったとか?
ないない。このわたし……カミュ・ロマーノフとしての記憶は本物だ。前世の意識が蘇るまでのそれを、ハッキリと知覚している。
まあ、わたしのことはともかくとして、今はユーリ君の事情だろう。
こちらが聞く体勢になったのを見て、彼がゆっくりと口を開く。
「簡単に言うと、ボクは『流出品』……脱走したハイヒューマンです」
「脱走、ですか?
そんなことを許す連中なのですか?」
「命がけでした。
二度は成功しないでしょう」
その時のことでも思い出しているのか、ユーリ君がやや遠い目となった。
「脱走した理由は?」
「本物の緑や、伝え聞く自由な生活に憧れたからです。
ハイヒューマンの移動拠点――パレスでの暮らしは、何もかもが無機質で、厳格に定められたものでしたから。
それぞれが役割を与えられ、それに従った調整と訓練を受けるんです」
宇宙な世紀における強化された人間の養成所を、アップグレードしたような感じだろうか?
ただ、見た感じだと外科的な措置は施されていないようだし、調整といっても、体に負担がかかる系のそれではないのだろう。
「参考までに、ユーリ君に与えられた役割は?」
「……潜入工作員、です」
言いづらそうな顔で、ユーリ君が己の役割を話した。
「潜入工作といっても、色々とありますが?」
「あらゆる状況に対応し得るそれです。
他者へ好感を与える顔と、常人を凌駕する運動能力が遺伝子的に与えられ……。
一日の全ては、戦闘訓練や操縦訓練、整備訓練と座学で埋め尽くされます」
「生粋の戦闘マシーンとして、育てられるということですか」
なんだろう……宇宙の心はユーリ君だったりするのだろうか?
ただ、そういうのは普通の神経なら……。
「ボクは、そういう生活に嫌気が差しました」
「ですよね」
そりゃそうだ。
誰もが彼もが、招待状ビリビリ破って即殺す宣言な変人になれるわけもない。
受験勉強だって嫌気が差すものなんだから、そのような生活だとなおのことだろう。
「だから、逃げた。
……帝国の勢力圏に入れたのは、運がよかったと思います。
パレスは絶えず移動していて、その現在地は内部の構成員にも秘匿されていますから」
移動していて、か。
となると、ユーリ君の情報を基に本丸へ攻め込む……なんてことも不可能だろう。そもそも、誰かに漏らさない約束だし。
つーか、広大な宇宙空間に向けた脱走であり、非行少年の家出とはわけが違う。
なんらかの方法で目星をつけていたのかもしれないが、マジで運が良かったな。ユーリ君……。
「そうして、辿り着いた先で出会ったのが、同じ『流出品』……あのスミスウェッソンを操るパイロットでした」
「あの機体に乗ってるのも、脱走者なんですか?
……いいえ、元、ですか」
現在はハイヒューマンの一員として復帰し、元気に破壊活動中であることは、今さら語るまでもない。
「彼……ロブの手によってボクは育てられ、そして、送り出された。
その後は、ロマーノフ大公軍のメカニックとして採用され、今に至ります」
そこまで語って……。
ユーリ君が、まっすぐな眼差しを俺に向けた。
「これで……全部。
ボクの秘密は全部です」
それを聞いて、俺の出した結論は……。
--
「となると、やるべきことはただ一つ……。
――説得ですね」
「え?」
お嬢様の口から出たのは、またしても予想していない言葉であり……。
ハイヒューマンの明晰な頭脳をもってしても、何を指しているのか分からず、聞き返してしまう。
そんな自分を、カミュお嬢様は不思議そうな顔で見たのだ。
「どうしました?
問題は、ユーリ君の恩人が敵に回ってしまっていることでしょう?
ならば、どうにかして説得しなければなりません。
くふふ、そして、あわよくばスミスウェッソンをこの手に……」
悪い顔しながら何か企むお嬢様から漂うのは、純粋な物欲と、いつも見せているロボットへの執着心であり……。
そこに、ユーリへの悪感情は一切ない。
いや、それは違うか。
――お嬢様は。
――今のを、告白ではなく相談だと思っているんだ。
恩人と戦わねばならないという、悩み。
それを聞いて、説得という解決策を提示する。
彼女にとっては、ただそれだけの話だったということだ。
つまり、彼女にとって自分は、揺るがなく身内であり、友人。
ハイヒューマンであったという事実は、その認識を小揺るぎもさせなかったのだ。
なんという――大人物。
翻って、決別を言い渡されるかもと怯えていた自分の小物なことよ。
「……ふふっ」
「どうしましたか?」
「いえ……。
そうですね。
ロブさんを、説得しましょう」
小首をかしげる彼女へ、笑みと共にそう告げるのであった。
お読み頂きありがとうございます。
次回、新展開突入です。
また、「面白かった」「続きが気になる」と思ったなら、是非、評価やブクマ、いいねなどをよろしくお願いします。




