明かされる秘密 中編
――外宇宙移民計画。
その名は、歴史の授業で習っていた。
「確か、当時の帝国は現在の生息圏が確立され始めた頃で……。
さらに人類の生息圏を広げるべく、入植希望者が募られ、送り出された。
そのような計画であったと、習っています」
付け加えるならば、だ。
当時の銀河帝国は、イケイケゴーゴーの全盛期である。
国家というものは――あるいは、企業や個人も同じか?
十分な力……あるいは金などを得ると、それに満足することはなく、どうすればより大きくなれるか。どうすれば手元の金などをより増やせるか、ということを考えるようになるものだ。
宝くじを一発当てて、その後はつつましく金利で暮らしたい……なんて考えてた前世の俺には、いまいち理解しがたかった感覚。
けどまあ、生きてる奴の思考なんてものは、そういうものだろう。
あぶく銭は身につかないというが、金というものは、身についていれば嬉しいコレクションじゃないのである。
おっと、話が逸れたな。
というわけで、イイ感じに力を付けていた我らが銀河帝国っつーか帝室は、俺はヤルぜ俺はヤルぜとばかりに拡大路線を打ち出し、現在の生息圏より外に入植可能な宙域を求めたのであった。
が、その結果は……。
「しかし、残念ながら移民船団は消息不明。
その後、政変が起きて銀河帝国内部も荒れたため、後続の計画も立ち消え。
以降、銀河帝国は現在の勢力圏を維持したまま、現在に至る……。
歴史の授業で教わった概要は、こんなところでしょうか」
そこまで言った後、確認するようにユーリ君の顔を覗き込む。
わざわざ、こんな古い出来事を持ち出してきた以上、考えられる展開は一つしかない。
つまりは、だ。
「ユーリ君たちは……。
ハイヒューマンは、消息を絶ったという移民船団の末裔なんですね?」
「その通りです。
ただ、それを説明する前に、一つ訂正を……。
こちら側ではそのように伝わっている移民計画ですが、ハイヒューマン側に伝わっている真実は異なります。
いいえ、伝わっているという言葉も、正確ではありませんが……」
「どういうことです?」
「つまりは、皇族内で起こった権力争いの結末だったということです」
キリリとした顔で答えるユーリ君。
うん……まず、皇族内で権力争い起こってたっていうのが、初耳だ。
「確かに、その後に起こった政変というのが、時の皇帝陛下とその弟君による争いだったと聞きますが……」
「ボクもこちらに来て調べましたが、その前段階があったということです。
歴史書にも、公開されている皇族血統図にも記されていませんが、当時の皇帝にはもう一人、知られていない姉がいた……」
「ははあ……。
そこまで聞くと、おおよそ想像がついてしまいますね」
これだけの情報が出されてしまうと、後はもう答え合わせをやるようなものだ。
ユーリ君にうなずきかけ、俺は自分の考えを口に出す。
「大昔の地球において、女性権力者というのは非常に稀だったそうですが……。
長幼の序を厳格に適用する帝国においては、いくつも事例がある。
そして、その知られざる――妾腹の姉君には、野心があった。
が、当時の皇帝……後に争う弟君も結託したのかな?
姉の野心は完全に封じられ、そして、危険分子を自分たちの側へ置くわけにはいかないとなった。
殺害にまで至らなかったのは、肉親の情でしょうか?」
「実際、殺害したようなものです。
姉を含めた移民船団は、弟たちの仕掛けた工作によって、構成する船舶のほとんどが航行不能となりましたから」
さらりと述べられたのは、恐るべき……そして、えげつない事実である。
もし、それが本当だったなら……。
五百年前の皇帝は、移民船団に参加した多くの人々を、殉葬者として定めたということであった。
古代のファラオじゃねーんだぞ。
「もはや、自力で植民可能な惑星に辿り着ける可能性はゼロであり、かといって、帝国に帰還することも不可能……。
進退窮まった移民船団は、ある決断をしました。
……ワープドライブです」
「確認しますが、ワープ可能なポイントではなかったんですよね?」
俺の質問に、ユーリ君はゆっくりとうなずいた。
これまでにも、何度か触れたが……。
ワープドライブというのは、いつでもどこでも好きな所に行ける万能の航法ではない。
実行するには、重力的な無風地帯であることが必須だし、超空間を経由する都合上、空間的な安定性も必要不可欠だ。
もし、それらを満たさない場所でワープを行った場合、時間も次元も隔てた超空間に取り残されるし、こちらの世界に帰ってこられたとして、どこに出現するかはアトランダムだという……。
「無謀といえば、あまりに無謀な賭けですが……移民船団は、その賭けに勝った」
「そうです。
いえ、ただ勝っただけじゃありません。
ワープしたその先に待ち受けていたもの……。
ボクたちは、それを遺跡と呼んでいます」
「遺跡……」
ごくり、と……。
唾を飲み込む。
ここまで……。
ここまで聞いて、俺が思うことなど、ただ一つ。
そう……。
――大体分かった。
--
――果たして、信じてもらえるだろうか?
説明しながらユーリの脳裏に去来していたのは、その思いを置いて他になかった。
ここまでの話は、人類史を紐解いてもあり得ないことではない。
移民船団の規模と構成する人員の数は、殉葬者として考えるならば類を見ないものであったが、妾腹の兄弟を追放すると共に抹殺……それを哀れみ、身勝手ながら供を用意するというのは、筋が通った話である。
だが、ここからは――別。
移民船団に待ち受けていたのは、あまりに荒唐無稽な……。
仮にフィクションであったとしても、彼らにとって都合が良すぎる夢想のような話で――。
「――つまり、ワープドライブした先には、超文明の遺跡が存在した!
移民船団は、その遺跡から得られたテクノロジーを基に生き永らえ……ばかりか、帝国側を遥かに凌駕する技術が手に入ったんですね!
オムニテックやハイヒューマンこそ、その産物……。
移民船団の子孫は、自分たちの肉体――あるいは遺伝子を人為的に強化することで、エスパーとも呼べる能力者になったのです!
そして、移民船団……ここからはハイヒューマンと呼びましょう。
彼らは、帰還と復讐を諦めていなかった!
永き時を経てワープドライブを繰り返し、ついに! 遥か遠くの外宇宙から帝国近郊まで帰還を果たしたのです!
そこから、今までの流れに繋がります。
ハイヒューマンは帝国への復讐を果たすべく、潜入と工作を行ってきた。
それらこそが、今までわたしたちの解決してきた事件だったのです!」
……いや。
――早い早い早い早い早い!
――理解が早すぎる!
瞳をキラッキランランに輝かせ、ガトリングガンのごとき勢いで放ってきた推測は、何もかもが大正解であった。
故人のことわざに、一を聞いて十を知る、というものがあるが……。
これはもう、そのような類ではない。
――そうそうそう! そういうのあるよね!
――やっぱり、そうこなくっちゃあ!
……という風に考えているのが、ハイヒューマンの力に頼らずともダダ漏れなのだ。
「あ、あの……お嬢様?」
「もちろん! 遺跡を遺した謎の文明はロクな記録も残さず撤収済み!
どこか高次元にでも旅立ったのか、あるいはなんらかの理由で死体も残さず絶滅したのか……なんとも都合が良い!」
「お嬢様?」
「全ては、超テクノロジーを駆使する復讐者側とそれを迎え撃つ現体制側に収束されるわけです!」
「いや、そうですけど……」
「OTの超パワーもこれなら納得!
さては、遺跡から出土したオリジナルの部品か何か組み込んでいますね?」
「なんで見てきたかのように知って――」
「――これはたまらない!
どうにかしてわたしも手に入れ、リッターなりティルフィングなりに組み込――」
「――カミュさん!」
思えば、初めてお嬢様の名前を呼んだ。
お読み頂きありがとうございます。
次回は、大体理解したカミュとユーリです。
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