プロフェッショナル~漢娘の流儀~ 後編
それから……。
「ニィハオ! モンファだヨ!
今回は、演習終了後のユーリちゃんにインタビューをするヨ!」
「また会ったね!
兵隊さんにとって、食べるのはとっても大事!
今回は、ユーリちゃんと一緒にハーレーの食堂へお邪魔するネ!」
「PLのパイロットも、体が資本!
ユーリちゃんたちパイロットは、普段どんなトレーニングをしているのか見ていくヨ!」
形式としては、あくまでもインタビュー……。
しかし、その実としてベタベタイチャイチャ攻勢と呼ぶべき密着取材は、加熱していた。
「ワォ! すごい汗だよ! 動くのはPLでも、パイロットの負担はすごいんだネ!
よかったら、このタオル使ってネ! モンファの公式グッズだヨ!
あ、使ったら返さないか、あるいは洗わないで返してネ!」
「ユーリちゃんもラーメン食べるのネ!
というか、日本式のラーメンを食堂で出してることにビックリ!
ワタシもラーメン好きだヨ! 最高の日本料理だよネ!」
「ウォウ! ユーリちゃんもう五キロ完走してるヨ!
本当に十歳なノ!?
頭がよくてパイロットで、運動もこんなにできるなんて、すごすぎるヨ!」
ともかく、万事がこんな感じ……。
好き宣言して開き直ったからか、四六時中ベッタベタと引っ付いてくるのだ。
そう、ベッタベタと、である。
この少女……やたらと引っ付こうとしてくるのであった。
その距離感バグりっぷりたるや……!
「あの、モンファさん?
そんなにベタベタとくっ付かなくても、取材はできると思うんですけど?」
わざわざユーリの首へ腕を回し、自撮り棒でツーショットしようとするモンファに文句を言うが……。
「ンー?
でも、こうやって一緒に映ってるところがないと、視聴者に受けないヨ?
あくまで、視聴者にとってはワタシのチャンネルなんだからネ」
……返ってくるのは、このような言葉である。
「だったら、なおのこと不味いんじゃないですか?
あの宣言もそうですけど、追いかけてくれているファンの人が怒ると思うんですけど?」
「きっと、大勢いると思うヨ?
でも、ワタシはバーチャル勢じゃないし、アイドル売りしているわけでもなイ。
一人の普通の人間なノ。
だったら、その幸せを応援してくれる人とだけ、繋がっていたいナ」
配信者としての未来を心配してみせても、返ってくるのは決然とした言葉だ。
こうなると、確かにその言葉はごもっともなものなので、ユーリとしては反論しづらい。
いや、実際のところ、拒もうと思えば拒めるのである。
ただ一言、こう言えばいいだけだ。
――ボクの方は、あなたに気がないんで。
……この一言で、十分に距離を置くことができた。
単純に嫌だと言えばいいのである。
では、なぜ十歳の純情ボーイであるユーリがそう言わないのか。
その理由は、単純。
別に、嫌ではないから、であった!
何しろ、ベッタリとスキンシップを取ってくるので、自然とその体臭というか……イイ匂いが鼻孔をくすぐってくる。
また、生地の色合いこそ日によって様々であるが、彼女は配信者としてのシンボルなのか、常にミニチャイナ服を着用しており……。
衣装の性質上、間近でチラッチラと見える生のふとももが――なんとも言えずまぶしい!
というか、率直な物言いをするならエロかった。
そう……もはや、ハッキリいってしまおう。
ユーリはぶっちゃけ、この状況がすっごく嬉しかったのである。
やや年上ではあるが、自分と年齢の近い美少女がエロい衣装でベタベタとスキンシップを取ってくるのだ。
これを嬉しく思わないのは、男性として致命的に何かが壊れている人間だけだろう。
唯一懸念事項なのは、カミュお嬢様になんと思われるかだが……。
冷静に考えて、あちらは――高根の花。
自分なんぞでは、いかに懸想しようとも想いが届かないことは明白。
ならば、せっかくのチャンスを不意にするのは、あまりにもったいないのではないか?
メカニックとして培ってきた建設的な思考は、ユーリに打算的なモノの考え方をも育んでいた。
「ま、まあ……。
それなら、しょうがないですかね」
ゆえに、なあなあで受け入れる。
誰が言ったか……モテ期到来!
ユーリはこれをエンジョイするラッキーボウィだぜい!
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「なあ、おィ……。
お前、それでいいのかァ?」
「それでいいって、なんのことです?」
ジョグがどのことを指しているのか半ば理解しつつも、あえてとぼけて答えたのは、艦内に存在するシャワールーム入り口のことであった。
今は、ちょうど食事時……。
つまり、食い気が強いIDOL隊員たちのほとんどが、食事を優先して食堂に群がる時間であり、自分と今シャワーを終えてきたらしいジョグを除けば、利用者はいない穴場と呼べる時間である。
ジョグがこの時間に好んでシャワーを使用するのは、自慢の髪を手入れするのに時間がかかるからだと聞いていた。
逆に、これまでユーリは、他の隊員と同様のサイクルでここを利用していたが……。
その考えを改めたのは、仕事の性質上、体にしみ込みやすいオイル臭などを入念に消すためである。
だって……モンファちゃんに移しちゃったら悪いからね!
とはいえ、グラムのメタ運動野パラメータをイジッていたら、ジョグよりも遅れてくることとなったわけだが。
「なんのことも何も、あのモンファって女のことだよ?
付き合うなら付き合う。そうでないならそうでないって、態度ハッキリさせるべきじゃねえかァ?」
余談だが、シャワー後に髪を下したジョグの姿は、長髪の美少年そのものであり、これを銀河ネットに流せば別方面のファンが生まれるのではないかと思えた。
が、そんな雑念はおくびにも出さず、ごもっともな指摘について考える。
ただし、導き出された結論はヘニャヘニャとして軟弱な代物であったが。
「いやあ、なんというか。
今は今だけなこの距離感を楽しみたいというか……」
「チッ……。
ヘラヘラしやがって」
それだけ言い残し……。
素早く派手なジャージに着替えたジョグが、更衣室を去っていく。
「してるかな?
ヘラヘラ……」
そんなことをつぶやきながら、自分も着替えようとしたその時である。
「ハイハーイ!
ワタシもご一緒するヨー!」
更衣室のドアを開き……。
なんと、モンファが姿を現したのだ!
「ちょ……!
ちょちょちょ……!」
こうなると、慌てるのはユーリの方である。
だって……まだ早いもの!
何が早いかって? そりゃもう色々だ。
「この時間は、人がいなくていいよネ!
ワタシも、カミュちゃまに教えてもらって、いっつもこの時間に使わせてもらってるヨ!」
「お嬢様が!? どうして!?」
ユーリが驚くのは、当然のこと……。
なぜなら、モンファは、女の子、だからだ!
教えるなら男用のシャワーが空いてる時間ではなく、女性用シャワーの場所である。
「? 別に不思議じゃないと思うナ?
それより、早くシャワー済ませないと、他の人たちが来ちゃうヨ。
アハッ、背中の流しっことかしようカ?」
なにか、決定的なものが、かけちがっているような……。
そのような感覚を覚えながらもユーリが慌てていると、モンファが丈の短いチャイナドレスをむんずと持ち上げた。
――ああ。
――ボクは、ここで大人になるのねん。
などと考えつつ、しっかり目を見開いていた結果……。
ユーリは――見た。
モンファがドレスを持ち上げた結果、顕わになったモノ……。
それは例えるなら、マンモスである。
しかも、ただのマンモスではない……。
ビッグなモスだ。
きっと、人型に変形し兜被って下駄を履くことで、獣も神をも超えし最強の戦士となるに違いない……そのようなモスなのであった。
オーケイ……シノブ!
いや、何がオーケイだというのか。
混乱し何かあかんチャンネルを受信しつつも、ハイヒューマンの明晰な頭脳は無情な結論を下す。
そう、要するに、だ。
「モンファさん……男だったんですか……!?」
「オウッ!?
ワタシ、一度も自分が女の子だって言ったことないヨ?」
「いや、だってそんな格好……」
んーな際どいスリットのチャイナドレス着といて、何を言っているのか。
仮面を被り、父さんの声が聞こえる辺りで悠然と佇むくらい騙す気満々である。いやなんのことだ? まだ何か受信している……。
「ワタシは、いつだって自分が一番輝いていられる格好でいたいノ!
好きには常に正直だヨ!」
ぶらんぶらんとモスモスしながら……。
いつの間にやら裸となったモンファが、迫りくる。
こ、これは……!
アッー!
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――そうだ。
――信じていいものなんて、この世に何一つ存在しないじゃないか。
二人でむちゃくちゃシャワーを浴びながら、ユーリの胸中にそのような想いが湧き起こる。
――あの人だって。
――そう言っていた。
今、浴びているのは温かなシャワーだが……。
呼び起こされる記憶では、薄っぺらなシート越しに冷たい雨を被っていた。
しかも、その雨にはごくごく微量だが、有害な物質が溶け込んでいるようであり……。
見回す全てがガラクタやジャンクで埋め尽くされたあの星には、ふさわしい天気であったと思う。
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ユーリ、掟破りのシリアスな回想に突入!
お読み頂きありがとうございます。
ごく自然な流れでユーリ君が回想へ入ったところで、次回から新章突入です。
夜くらいに新しいキャラクター表も投稿します。
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