三バカがいく! 中編
『惑星テポドアのみなさーん!
今日は楽しんでいってくださいねー!』
IDOLが有するスタジアムシップ――ティーガーは旧式船を改装したものだが、設備の充実ぶりはなかなかのものがあり……。
しかも、ユーリちゃんのアニキが暇潰しで手を加えたりしているため、今となっては最新鋭のそれにも劣らぬか、それ以上の演出を行うことが可能となっていた。
重力コントロール装置とホログラム映像……。
それから、昔ながらのワイヤーを用いて今回演出するのは――魔法少女天使!
スタジアム上空を見るがいい……。
ホログラフィック処理で生み出された青空からは、純白の羽がいくつもいくつも舞い落ちてくる。
白鳥を思わせるそれの主は、しかし、鳥類ではない。
――人だ。
新しい方のキャプテンことカミュちゃまが、背中に生やした翼からこれを舞い散らしているのだ。
それだけならば天使であるカミュちゃまが天使をやっているように思えるが、ここにひとつまみの魔法少女要素が加わる。
イメージカラーの白を基調としたコスチュームは、ふわりと広がったパニエが特徴のマジカルチックなデザインであり……。
小道具として、大きな宝玉がはめられた長杖を手にしているのが、魔法的な雰囲気を強調していた。
なんという――ロリかわいさ。
倒錯的なその愛らしさは、荷電粒子ビーム以上の熱でもって見る者の脳を焼くに違いない。
その証拠に、耳を傾ければ……。
――オッケーイ!
悪徳領主の政策により情報封鎖され、旧世紀地球の農奴がごとき生活を送っていたはずの人々――抽選で選ばれたテポドアの民たちが、教わってもいないオッケイコールをかましているではないか!
これが、カミュちゃまの声に秘められた魔力……。
彼女の歌を聴けば自然と心が湧き立ち、なんだか知らんがとにかくオッケイな気分となるのであった。
これを思えば、Dペックスごときがカミュちゃまラップによって粉砕されたのは、ごく当然な自然の摂理といえるだろう。
そして、スタジアム上階の特別席からこのライブを眺められるのは、命がけで出撃するパイロットの特権……。
「オッケーイ!」
「ふわふわ!」
「カミュちゃまサイコー!」
アットン、ベン、クレイルの三人は、いつも通り任務完了後に行われたライブで、いつも通りノリノリのコール&レスポンスを披露していた。
だが、体と心にみなぎるエネルギーは、いつも以上のものだ。
何しろ、今回の山岳基地奇襲作戦。
カミュちゃまと同様、主役といえる役割を果たしたのが……。
「ったく、はしゃぎやがって。
テンションたけえのはいつも通りだが、今日はブレーキハズレてるんじゃねえかァ?」
特別室の後方で腕組みしていた古い方のキャプテンが、そう言いながらコームで自慢のリーゼントを整える。
今は曲と曲の狭間に存在するMCタイム……。
テポドアの民たちに向け、彼らがいかに搾取されていたのかと、これからの展望を語るカミュちゃまを尻目にしながら、三人で振り返った。
「へっへっへ……何しろ、今回はおれたちバイデント隊が大活躍でしたからね!」
「リアクター切って大気圏突入からの静かな降下……。
いやあ、今思い出しても震えてきやがるぜ」
「そんで、降下するや否や出力全開での大立ち回り!
あの映像、銀河ネットでも流れたりすんのかなあ?」
三人で反すうするように戦闘時の光景を思い出す。
今まで、自分たちバイデント隊はどうにもモブくさいというか、課される役割は先触れやアーチリッターの直掩など、重要ではあっても地味なものばかりであった。
だが! 今回は違う!
後詰めとしてユーリちゃんのアニキや旧式のキャプテンも加わっていたが、戦局を決したのは、ほぼほぼ自分たちとカミュちゃまだ。
実のところ、ユーリちゃんのアニキや旧型のキャプテンも密かにファンが増えつつあり、グッズ展開を企画されているらしいが……。
このアットン、ベン、クレイルが、ちびぐるみとなって商品棚に陳列される日も近いだろう!
「イイ気になりやがって。
大体、それができたのは、ユーリがバイデントをアーチリッターと同じ仕様に改造したからだろうがァ」
かつての方のキャプテンがそう言うと、サイリウムの様子を確かめていたユーリちゃんのアニキが苦笑いを浮かべた。
「機体の特性上、お嬢様は単独行動する局面が多いですからね。
武装に過剰な出力を必要としないバイデントへステルス改造を施し、直掩とするのは必須だったと思います。
……まさか、それで奇襲降下からの殴り込みをかけるとは思いませんでしたが」
簡単に言っているが、装甲をステルスプロジェクター化するのも、リアクターを瞬発力のある調整にするのも、簡単なことではあるまい。
それを実現してくれたユーリちゃんのアニキには、脱帽するしかないだろう。
「ともかく、今回のMVPはカミュちゃまであり、おれたちでさあ」
「この後は、皆でステージに並んで銀河ネットリポーターからの生配信インタビューだろ?」
「いやあ、どんなこと話すか、考えとかねえとなあ」
そうこうしている間にMCは終わり、次の曲へと移り変わる。
アットン、ベン、クレイルはサイリウムを構えながらも、この後に控える晴れ舞台へ胸を躍らせたのであった。
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「この惑星テポドアでは、人々が情報統制され、教育を与えられることもなく麻薬原料の栽培へ従事させられていたわけですが、そのことについてはどう思われますか?」
「これは皇帝陛下のお考えでもありますが……。
まさに、貴族政治の腐敗が招いた象徴といえる出来事だと思います。
各領主が自治権を強めた結果、銀河には多様な文化が生まれました。
しかし、一方で他者の掣肘がないのをいいことに治めるべき民を奴隷のごとく扱い、私腹を肥やすことに力を尽くす者も数多いのです」
リポーターが投げた質問は、あらかじめ取り決められていたもの……。
何しろ、この惑星テポドアで暮らす人々は、自分たちの栽培する植物がどんな用途で用いられるのかすら知らずに、牧歌的な暮らしを送ってきたのだ。
だが、それは外部の人間から見れば、農奴そのものの生活……。
ライブの合間に挟んだMCでもその辺りには触れていたが、今後、このテポドアでは腰を据えた意識改革が新領主の手で行われていくのだろう。
――でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない。
前置きというべき質問が終われば、その後は今回の活躍に関する質問……。
いわば、ヒーローインタビューの時間である。
「――ところで、今回は基地に立て籠もった領主を逮捕するべく、電撃的な奇襲作戦を実行されたそうですね?」
――きた!
――きたぞきた!
そわそわと身を震わせながら、三人で互いの目を見やった。
何しろ、カメラが回っているので目立つような挙動はしない。
だが、互いに待ちわびた瞬間が訪れた喜びへ震えていることを、抜群の連係で察したのである。
「なんでも、アーチリッターのステルス能力を活かしつつ、大気圏外からの強行突入を行ったとか?」
「はい。
敵領主が最後の砦として用意したあの基地は、超大型の荷電粒子砲によって上空はおろか、大気圏外すらも睨み据えた難攻不落の要塞でした。
これを攻略するために、周辺宙域から電磁カタパルトによって射出。
以降は、慣性によって移動し、地表へ到達するギリギリのところまでリアクター出力を抑えつつ、装甲のステルスプロジェクターによって光学的な索敵もかい潜ったのです」
――うんうん! そうそう!
――おれらもいたけど!
……と、思ったが、慌てるカニは穴へ入れぬもの。
すぐに自分たちへ話が振られるだろうと判断し、悠然と待ち構えた。
こっちは、いつでもキメ顔でいけるようスタンバってるんだから!
「なるほど!
入念な計算に基づく射出とはいえ、自身でなんの行動もしないというのは、不安ではありませんでしたか?」
「そこは、仲間を信じていますから。
わたしはただ、自身に課した任をまっとうするだけです」
――うんうん! そうそう!
――その仲間として、おれらも同行してたけど!
「仲間を信じ、命がけの奇襲作戦を遂行する。
世間ではカミュちゃまのことをおみこしとか飾りとか呼ぶ人もいますが、今回の件できっと風向きは変わることでしょうね?」
「誰に何を言われようとも、関係ありません。
わたしはロマーノフ大公家の娘として……そして、皇帝陛下からお預かりした独立部隊の指揮官として、為すべきことを為していくだけです」
――うんうん! そうそう!
――でも、おれらのことは世間に宣伝してもいいんじゃないかな?
何やら、風行きの怪しさを感じつつ……。
自分たちに話が振られるその瞬間を、待ち続けた。
「そして、カミュちゃまの奇襲に続いて決定打となったのが、旗艦ハーレーの火力なわけですが、その辺りについても詳しく聞きたいですね」
「巨砲というものは、時に使わずともその威力を発揮する。
今回、敵に投降を決断させる決定打となったことが、その事実を――」
だが、そうこうしている間に話は別方向へと流れていき……。
結局、アットン、ベン、クレイル……三人のバイデントパイロットに話が振られることは一度もないまま、インタビューは終わったのである。
――腑に落ちないんだぜ!
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次回はオチです。
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