超電磁にラV・ソングを 16
突如として出現したファイタービーストなるマシーンの圧倒的なパワー……。
これを目にしたファルコンビッグ城のクルーたちは、いずれもが絶望の色を宿しており……。
ことに、コネクトVの建造を主導し、愛娘がこれに乗っているネッド男爵のそれは、深刻なものであった。
最強無敵の超電磁ロボットは、ここに敗れるのか……!
シスター・マリア・スティーヴ……いや、マリアンヌは、若き命を散らしてしまうのか……!
この星は……フィリピンVはどうなってしまうのか……!
様々な思惑が脳内をかき乱せど、そのどれかが行動や言葉になって出てくることもない。
ただただ、ブリッジの巨大モニターに映された光景を見つめるだけだったのである。
「V……トゥ◯ャザアアアアアアアアアアッ!」
シスター・マリア・アームストロング……いや、カミュ・ロマーノフが叫んだのは、その時のことであった。
――V◯ゥギャザー!
その言葉を聞いた途端……フィリピンV人の全細胞にエネルギーが満たされ、超電磁のごとき熱を発し始める。
感じる……自分たちのDNAに刻み込まれし因子を!
脈々と受け継がれし先達の意思が、こう告げているのだ。
――オイオイオイオイオイ。
――流れ変わったな!
ネッド男爵だけではなく、ブリッジのクルーたちが……。
それから、通信ウィンドウ内のコネクチームが、一斉に拳を突き出す。
ここから放たれる叫びは、ただ一つ!
「「「「「「レエエエェェッツ・ボ◯トイン!」」」」」」
そして、ここから奏でられるのは、アカペラによる合唱だ。
シスター・マリア・アームストロングが、聖歌隊へ入ると共に持ち込んだこの楽曲……。
当然、この場にいる者たちは完璧に日本語で歌うことが可能であった。
なぜかは分からない。
だが、この曲を聞くと、フィリピンV人の魂が震えに震えるのだ。
軽快かつ力強いリズムに乗りながら、皆で声を張り上げる。
これは、言ってしまえば――軍歌。
とりわけ、陸軍のそれにシックリきそうな代物であった。
例え、どれだけの苦難が待ち受けようとも……。
どれほどの強敵が立ち塞がろうとも……。
挑むことを、恐れてはならない。
周囲を見てみればいい。
そこにいる人と、瞳と瞳で見つめ合えばいい。
そうすれば、分かるはずだ。
我らは――仲間だと!
見回せば、ブリッジクルーたちからは……。
そして、コネクチームのメンバーたちからは、恐怖心というものが完全に消え去っていた。
皆、分かっているのである。
――勝てる!
――我々は、究極のパワーを手にしたのだ!
『ロト……ブレエエエエエッド!』
曲の合間、スティーヴが必殺剣の名を叫んだ。
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「な、なんなのだこれは!?
一体、どうすればいいのだ!?」
ネオマニラの市街で起きた異変……。
これにうろたえたヴァンガードは、ファイタービーストの操作すら忘れて周囲を見回していた。
空中に投影されているホログラムウィンドウからは、アナウンサーの熱唱が轟いており……。
それは、避難しながら見ていたフィリピンV人全員に伝播し、街中が力強い歌声で満たされているのである。
「きゅ、急に全員が日本語で歌い出すとは……!
これは、カミュちゃまがミサの時に歌っている曲か!?
いい歌だとは思うが、わけの分からんことをしおって!」
気を取り直し、ファイタービーストとリンクする携帯端末の画面を見た。
カメラアイは、コネクトVが引き抜いた胸部パーツから、伸縮刀身の伸びる様をハッキリと捉えている。
「ふん……剣には剣で対抗しようというわけか。
いいだろう。
遠隔操作とはいえ、このヴァンガードは決して遅れを取ら……ん?」
ここで、さらなる異変に気づく。
現地でコネクトVと対峙するファイタービースト……。
遠隔操縦している機体が、操作を受け付けないのだ。
いや、ホログラムウィンドウの中継映像を見れば、ファイタービーストは確かにヴァンガードの操作へ応えようともがいている。
だが、ロト・ブレードなる刃から発せられている超電磁の稲光が機体へまとわり付き、その動きを拘束しているのだ。
「う、動け! ファイタービースト! なぜ動かん!
超電磁によって拘束しているとでもいうのか!
我々の超電磁テクノロジーに、そのような力は……」
――コネクチームはその力を表現してくれるマシーンに乗っている。
「え? え? 何?」
――コネクトVにね。
「女の声? なんなの?」
――心を読めるんじゃなかったのか? 使えないな。
「さっきからなんなの!? 怖いよう!」
恐怖し震え上がるヴァンガードだが、そうこうしている間に、コネクトVがエネルギーチャージを終える。
超電磁エネルギーが充満し、みなぎるエネルギーで輝く刀身……。
これを、天空に向けて高々と突き上げたのだ。
『必殺……!』
敵のメインパイロットが叫ぶと同時に、コネクトVが跳躍した。
そうすることで、太陽の光を背に受けた姿の、なんと壮観なことか……!
真実、人のテクノロジーを超えた力が、そこには宿っているのである。
対するファイタービーストは――動かない。
明らかに設計出力を超えた超電磁エネルギーによって完全拘束され、今や斬られるのを待つばかりなのであった。
『V文字斬りいいいいいっ!』
メインパイロットたるスティーヴ嬢の叫びと共に、跳躍の頂点へと達したコネクトVが剣を振り下ろす。
――ズンッ!
落下しながら放たれた跳躍斬りは、身動きできないファイタービーストの右肩からヘソの辺りにかけてまで、深々と突き立てられた。
すでに、この段階で――勝負あり。
だが、フィリピンV人の燃える闘志は、これで決着することをよしとしない!
「な、なんで捻るんだ!?」
ヴァンガードが叫んだ通り……。
グリグリと刀身を捻り始めたのである。
「――コワイ!」
誇り高きハイヒューマンが、恐怖におののくのも無理はない。
コネクトVが見せた動きは、浮気された妻が旦那の腹に出刃包丁をぶっ刺し、かつ、治療の可能性も断つべくグリグリと捻り上げるようなものであるのだ。
なんという――殺意。
さきほど、スティーヴ嬢はこの一撃を指して、必殺と呼んでいた。
必ず殺すと書いて――必殺。
このV文字斬りという技は、必殺という概念を正しく剣技の形で表した一撃なのである。
――グリリ!
ファイタービーストの腹で捻られたロトブレードが、斬りつけた時と逆……左肩の方に刃を向けた。
『とああああああっ!』
そこから……再度の跳躍。
つまり、V文字斬りとは、右肩からの斬り下ろしと左肩への斬り上げを連続して行う技であるのだ。
ロトブレードに宿っていた超電磁の輝きが、必殺剣を受けたファイタービーストの胴体で残光となり、スパークする。
その超電磁光が描き出すのは――V。
「ば、バカなあああああっ!?」
ヴァンガードの叫びもむなしく……。
一太刀だけでも致命傷になる斬撃を連続して喰らったファイタービーストは、内部機構を爆散させ、炎に包まれていく。
コネクトVの勝利だ。
『見たか……!
これが超電磁の力です!』
勝ち誇るスティーヴ嬢の言葉と共に、着地したコネクトVが残心を決めた。
背後にファイタービーストの爆発を背負いながらそうする姿は、まぎれもなく、スーパーヒーローそのものである。
「……絶対に超電磁の力ではない。
もうやだ。この星怖い。なんなのあのオカルト?
あの方にも絶対手を出さないよう進言しておこう」
一方、ブラックアウトした携帯端末を握るヴァンガードは、物陰で嘆くのであった。
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次回、長かった本エピソード完結です。
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