愛されてる"お姉ちゃん"は偽物
僕には厳しいお姉様がいた。
小言が多くて、世間で言う母のような存在だったのかもしれない。
僕にはお母様がいないからわからないけどきっとそうだった。
お姉様は僕ががんばったら褒めてくれた。たとえ失敗したとしても頭を撫でてくれた。
勉強のノルマも大変だったけど、無関心なお父様に代わって後継者の育成をがんばってくれたんだと思う。
何をしても完璧で、表情はあまり変わることはなかったけど僕にとってはたった一人の大事なお姉様だった。
ある日からお姉様は別人になった。
いつもヘラヘラしていて、僕にはとびっきり甘くなった。
使用人たちは笑顔が増えたと安心していたが、あんなのお姉様じゃなかった。
しまいには「よかったらお姉ちゃんって呼んで!」だって。
別人になったことがバレるのも時間の問題だろう。
今日も"お姉ちゃん"はにこやかだ。
なんだか最近、父の帰りも早い。"お姉ちゃん"は偽物なのに、今更家族ごっこをしている。
僕はお姉様に会いたい。
"偽物"を殺せば戻ってきてくれるのだろうかって何度思ったことか。
でも、"お姉ちゃん"は純粋で天真爛漫でとてもいい人だ。
だから僕は今日も弟を演じるしかないのだ。
気持ちの悪い、平穏な日々。
お姉様。
もし、どこかで生きているなら幸せでいてください。
両親に代わり厳しくも愛情を持って育ててくれたこと、絶対忘れません。
もし、来世があるならお姉様の弟としてまた受け入れてくださいますか...?
異世界に転生したヒロインがみんなに愛される話の裏側。
偽物だと気付いた弟の虚しくも平穏な日々の話。