(13)
「ん……? ここは……」
「あ、ラヴィーユ大佐、起きた?」
目に差した光が眩しくて、ゆっくりと目を覚ますと、ひょこりとフェリチタが顔を覗かせた。
驚いて飛び起きると、全身を激痛が走った。
「痛った……」
「あーあー、突然動くからだよ。ほら、寝た寝た」
そっと肩を押されて、先ほどと同じ体勢にさせられる。
ここから見える天井は、神殿の中だった。
ゆっくりと辺りを見回すと、帝国軍の兵士たちが忙しく駆け回っていた。
彼らの走っていく先を辿っていくと、エーデルとクララが寝かされているのが見えた。
「兄さんと、姉さんは……」
「クララ様の方は、先に聖杯の水を飲んでいたから、そのうち目覚めるよ。問題は、陛下の方。どうやら、強い呪いにかけられていたようでね。それが原因で、あんなことをしでかしたんじゃないかって、治癒師が言ってたよ」
「あんなこと?」
確かに、この神殿に来た時のエーデルは、いつもと違って見えた。
目の焦点が合っておらず、突然妙な呪文を唱え始めたのだ。
フェリチタは、ウリウリとオースティンの頬を突きながら話を続けた。
「クララ様の意識を奪い、ラヴィーユ大佐たちに聖杯探索に行くよう仕向けた。また、聖槍やマーリンの杖を収集しようと躍起になって、そして、クララ様を生贄に悪魔を呼び出してしまったんだ」
「クララ様を生贄に……?」
「あぁ」
フェリチタはにこりと笑ってみせた。
「悪魔を召喚させるため、クララ様の身体に呪文を施そうとして、街に魔獣を引き込んで宮殿を直接襲わせて、まずクララ様の意識を奪った。国の中に魔獣が現れたにしては、街が綺麗だったのがその証拠」
「……兄さんが、そんなことを……」
「あの時点で、悪魔に意識を奪われていたんだろうね。ラヴィーユ大佐の顔を見ている間は引っ込んでいたようだけど」
では、自分は、エーデルの様子をまるで理解していなかったということではないか。
あんなにも一緒にいたのに。
仕事で離れることはあっても、オースティンはエーデルの傍にいた。
「俺は、いったい兄さんの何を見ていたんだ……」
「そう気を落とさないでよ、ラヴィーユ大佐。あっちは神と同等の力を持つ悪魔。つまり、知能もそれだけ高いのだから、大佐が気づかないのも無理はない」
「だが、それでも……」
「大丈夫だよ。これからは、その剣で陛下を守ってやればいい」
それ、と指さされた先のオースティンの手には、まだエクスカリバーが握られていた。
悪魔と共に消えなかったようだ。
ゆっくりと、無理矢理腕を動かして聖剣エクスカリバーを目の前に掲げる。
キラキラと太陽の光を反射させたエクスカリバーは、オースティンの手に馴染んだ。
「あぁ、守ってみせる。絶対に」
「うんうん、その意気だよ、ラヴィーユ大佐。あ、ヴィルトゥ中尉! 手伝うよ!」
フェリチタが立ち上がって、イゾラの元に駆けて行った。
オースティンの身体は既に治癒師によって治療されているようで、身体中がミイラのように包帯でグルグル巻きだった。
あれだけ毒を浴びて、肌を焼いたのだから仕方がない。
腕を下ろし、はぁ、と、目を閉じて息を吐いたところで、また顔に影が落ちた。
目を開けると、そこには治療を施されたグローセンが立っていた。
彼も、オースティンと同じく包帯でグルグル巻きにされていて、見ていて痛々しい。
「ぐ、グローセン……」
鬼の形相でこちらを睨むグローセンに、思わず身体がびくついた。
「ラヴィーユ」
「は、はい」
思わず敬語になる。
「今回は、うちのエーデル様含め、世話になったな」
「う、うちの……?」
どこをとって、「うちの」と言うのか。
だが、突っ込む間もなくグローセンが言葉を続けた。
「こんなことになるはずじゃ、なかったんだがな。共闘する気もさらさら無かったが、今回はあんな脅威を見せられたら仕方ない」
「……帝国に、戻ってこないのか?」
うっかり、そう聞いてしまった。
グローセンが戻ってきてくれたなら、帝国軍はまた力を持ち直すだろう。
まぁ、四六時中嫌味やらけん制やらの視線に晒されることになるだろうが、それでもオースティンは期待を込めて聞いた。
だが、想像はしていたが、グローセンから返ってきた答えは無慈悲なものだった。
「帰らない」
「どうして……」
「そっちのやり方は、トンとオレには響かない。エーデルと離れるのは心配だが、それでも、オレは革命軍を組織することに意味があると思っている」
ついに呼び捨てである。
「ま、お前がくたばったと聞いたら、戻ってきてやらんこともないがな。今のところはそんなつもりはさらさらない」
「……そうか」
エーデルは、きっと落胆するだろう。
そう言い添えても、グローセンの答えは変わらない。
「じゃあな、クソ野郎。エーデルの弟だからって調子に乗ったことをし続けていたら、またオレがぶっ潰しに来てやる。覚悟しておけ」
「あぁ、楽しみだ」
オースティンが微笑んで言うと、グローセンは苦虫を噛み潰したような顔をして、
「そういうところが気に食わないんだよ!」
と、叫んだ。
グローセンがエーデルの方へと歩いていくのを見守ってから、オースティンはまた目を閉じた。
空気が美味しい。
世界に、またひとまずの平和が戻った。
(俺が、この世界を守るんだ)
大層なことを言っているとは思う。
だが、自分が守らなければいけないのだ。
兄の愛したこの世界を。
たった一人で守るとしたら大変だろうが、今のオースティンには仲間がいる。
ギュウと、エクスカリバーを握り締めると、聖剣もまるで喜んでいるかのように光を放つのだった。
完結です!
読了ありがとうございました!
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