幕間――天敵との邂逅
サブナックの妖精界への潜入の一件が、一段落ついた頃、万魔殿のサバトの間では、千を超える悪魔が集められ、パーティー会場は、早くも賑わいを見せていた。
立食形式で用意されたバイキング料理が幾皿も、長テーブルに置かれてゆく。
ツインテールのメイド悪魔は、会場へ急ぐ。
アスタロトの欠席を告げるためと、パーティー会場の動向を探るためである。
ブロケルの序列は49位なので、出席する権利はあるが、優先順位はアスタロトの命令である。
バールゼフォンとベルゼビュートが、滅多に顔を出さないサバトに出席する――それだけでも主の興味を引くネタだ。
会場近くの長い回廊をブロケルが急ぎ足で、通り抜けようとする。
視界に仮面を被った悪魔が現れ、ブロケルは横に退いた。序列9位の悪魔ダンタリアンである。魔界において、序列は絶対ではないが、万魔殿の中では序列が優先される。
なぜなら、帝王サタンが設けた制度だからだ。
(序列71位から9位にまで、上り詰めた悪魔ダンタリアン。態度の悪さはともかく、努力家のようですね?)
「アスタロトの飼い犬風情が、ここで何をしている?」
(ちっちっちっ、あたしはアスタロト様の飼い犬ではなく、飼いメイドなのですよ!)
「主がこの度のパーティーを欠席なさるので、そのご報告に……」
「そうか。やはり、アスタロト殿には八大魔王衆は荷が重いのではないか? 私がいつでも貴公の代わりとなろうと伝言を頼む」
「了解しました……」
(パーティー休んだくらいで、魔王衆を降りろと、頭わいてんすかね、こいつ!)
ブロケルがダンタリアンをにらむ。
それに気づいたダンタリアンが仮面をカンガルーを模したものに取り替え、メイド悪魔を蹴りつける。
ブロケルは、とっさに両腕でカバーしたが、二十数メートルの距離に吹っ飛ばされた。
「すまない。足が滑った」
笑いながらダンタリアンが立ち去る。
(んなわけあるか〜い! あのクソガキ、いつか耳から手ぇ突っ込んで、脳みそギッタンギッタンにしたるわっ! 復讐のAB型をなめんなよっ)
どうやら、魔界にも血液型の概念があるようだ。ブロケルの場合は雑誌や占いで、吸収した知識を活用しているので、真偽の程はわからない。
こうして、天敵同士が顔を合わせたのだった。




