バールゼフォンの策略 5
異様な雰囲気が辺りを支配していた。
バールゼフォンの陣営に、サブナックを呼び込めたは良いが、周囲は納得していない。ゆえの模擬戦である。
元々、サブナックは魔力が高い悪魔ではない。ただ、攻撃に移る瞬間、刀の切っ先に魔力を傾注し、魔王衆のレベルまで引き上げているのだ。サタン主催の御前試合で、剣帝アスモデウスに膝をつかせたサブナックだったが、一瞬の攻撃に使用した魔力量が膨大で、戦いを継続できぬほど消耗を強いられる一戦があった。
今は、サブナックが威力偵察を遂行できるほどの攻撃力が問われている場面だ。
(茶番につき合わねばならぬとはな)
模擬戦など、つまらない。
命と命のやり取りがあるからこその死合だ。
敵を斬り刻む快感に優るものはない。
カエルが右の吸盤を上げ、模擬戦開始の合図とした。
「始めっ!」
「飛燕八閃――」
ゆらりと、獅子頭の剣士が霧と化したかに見えた。
飛燕斬――サブナックの剣技の一つで、魔力の刃を飛ばす技法である。それを閃光と見まがうハ回の斬撃!
キマリスの眉間に、喉に、心臓に青いインクの線が走る。
当のキマリス自身は、何が起きたのか気づいていない。
「そこまでだ!」
模擬戦終了を告げるバールゼフォン。
居並ぶ悪魔の軍勢は、サブナックの剣技に感嘆する。
今の茶番で、サブナックの魔力はほぼ空である。
だが、獅子には勝算があった。
いざとなれば、菊一文字でねじ伏せれば良い。
沖田総司の元、愛刀も応えてくれるだろう。
呆然とするキマリス。
一瞬遅れて、心臓に当たる部分に、青い線が引かれているのを確認する。
(バカな! サブナックが動いた風には、見えなかったぞ)
一人の悪魔が気を利かせ、等身大の鏡を出現させる魔法を使った。
キマリスが己れの全身を視認する。
見ると、眉間と喉と心臓に青い線が走っていた。さらに四肢と腹部にもインクが浮き出した所であった。
武器をオールマイティに使えるキマリスは確かに、戦士としては優秀だが、サブナックという武人の前では、単なる器用貧乏でしかない。
獅子頭の剣士は研鑽に研鑽を重ね、剣の道を極めようとしている。勝てぬのが道理だ。
「こ、この勝負は無効だ。サブナックが何かインチキをしたに違いない!」
「見苦しいぞ、キマリス!」
自身の実力すら把握できぬ手駒なぞ、バールゼフォンには必要ない。
「恐れながら、納得できませぬ。サブナックが何かしたに……」
バールゼフォンの右眼が、妖しく赤く光る。その眼光はレーザーと化し、キマリスを蒸発させた。
邪眼と呼ばれる現象で、魔力を意図的に暴走させ、攻撃力を倍加するスキルである。
この能力は文字通り、相手を眼力で射殺すことができる。
静まり返る悪魔の軍勢をバールゼフォンは見渡し、
「魔剣士サブナックを、ティル・ナ・ノーグへ侵入させるものとする!」
支配者の鶴の一声が決定事項を伝えたのだった。
後で、書き足します。
仕事がm(_ _)m
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