バールゼフォンの策略
黒猫王子が赤帽子と戦っていた頃、魔界ではバールゼフォンの息がかかった数百の悪魔が、彼に割り当てられた空間に集結していた。
魔界の中央には、万魔殿と呼ぶ広大な巨城があった。
日本で例えるならば、一つの県が納まるくらいの大きさだ。さらに、内部は迷宮のように入り組んでおり、移動には転移の魔法陣を使用する。
72柱の魔神を始めとする上位悪魔や、実力を持つ大悪魔には、広大な空間が与えられている。
サタンの居る帝王の玉座の間や、宴を行うサバトの間や、食堂、娯楽場、図書館、宝物庫からワインセラーまで、幅広い施設が存在する。
八大魔王衆ともなれば、与えられる空間は広大で、建築の魔法に長けた悪魔を使い、カスタマイズを施している。
一説には、ソロモン王が指輪の能力で、魔神らを使役し、悪魔の住まう万魔殿と、天使が暮らす黄金宮殿を建てたとも言われている。
ソロモン王自体、存在が謎なので、真偽の程は確かではない。
万魔殿の四隅には、ジグラットと呼ぶ聖塔があり、巨城には高位悪魔の像が埋め込まれ、その周辺を人骨や獣骨や禍々しい意匠が施された造りになっている。
対面にはアスタロトの居城、スカル・キャッスルがある。外壁は人骨のみで構成されており、別名ガイコツ城と呼ばれている。
そのスカル・キャッスルの主であるアスタロトは、私室で食事の最中であった。
細長いテーブルの上に置かれた皿の中には、山盛りのあらゆる生物の新鮮な眼球が詰め込まれていた。アスタロトは手づかみで眼球を口の中に放り込んで行く。
アスタロトの好物である。
最後の目玉を名残惜しそうに、口に運ぶアスタロト。蛇のような二又の舌が眼球を絡め取り、血の色の唇の中に消えた。
「おかわりをお持ちしますか?」
背後に控えていたメイド姿のブロケルが訊いた。
「そうだな。いや、その必要はなさそうだ」
意味ありげな笑みを浮かべるアスタロト。
そこへ、
「死ね! アスタロトっ!」
透明化スキルで近づいたカラスの頭部の悪魔が、ナイフを手に出現した。
「〈ラプンツェル〉!」
アスタロトのギフト、ラプンツェルが発動する。
漆黒の長髪が無数の蛇と化し、悪魔の首と四肢を拘束し、一際大きな髪の房が大蛇に変貌し、心臓をくり抜いた!
「……ギャ、ガ……」
まだ息のあるカラスの眼球をくり抜いて、口の中に放り込む。
「鮮度の良い眼球の味は、格別だな!」
「おかわりをお持ちする手間が省けましたね」
と、ブロケル。
「エキドナ――死体を始末しといてくれ」
アスタロトの左腕から、赤い大蛇が這い出て、悪魔の死体を大口で飲み込みはじめた。
「ママばっかり、ズルい。たまにはアタシも眼球食べたい」
文句をたれる大蛇。
「それは済まなかった。ブロケル、眼球のストックがあれば出してやってくれ」
「了解しました」
これが、スカル・キャッスルの日常であった。
考えがまとまったら、書き足します。




