幕間――メタトロンの真実
妖精界ティル・ナ・ノーグは、神の身体の一部と、天使たちの遺体を材料として創られた。
堕天使から悪想念を排除し、天使に戻すための場所でもあった。
ティル・ナ・ノーグ、リダス平原――
そこには、全能の神アドナイと七大天使――そして、軍神メタトロンが集っていた。
神・アドナイは力を失くして久しかった。
メタトロンの継承の儀式のために、数百年のスパンを置いたのは、一回失敗しているからだった。
熾天使サンダルフォン――メタトロンの弟に当たる存在で、彼以外に次代の神となる適任者は居なかった。神やメタトロンでさえ、そう思っていた。
が、地球の記憶を受け継ぐ行為は、想像を絶する苦しみを伴うものだった。
膨大な過去の悪想念の負荷に、熾天使が耐えられぬのだ。
天使の最上位に位置する熾天使でさえ、惑星一つ分の記憶を処理することは叶わなかった。
ゆえに、サンダルフォンは天界で堕天し、竜となった。
天使が堕天するパターンは、二通り存在する。
悪魔とドラゴンである。
竜へと堕天するのは、希少なケースだが、稀にそれ以外に変貌する事例もあった。
ドラゴンに変わる原因は、わからず仕舞いだが堕天竜はいずれも強大な能力を有していることが多く、万一のため天界の最高戦力である七大天使が集められたのだった。
大天使長であるミカエルを筆頭に、ガブリエル、ラファエル、サリエル、ウリエル、パヌエル、ラグエルらは神の要請で、武器を携えて、待機している。
これはメタトロンが万が一、狂化した場合の措置となる。
狂化は悪想念の負荷を処理しきれずに、精神が狂う状態である。
つまり、敵味方の区別がつかず、破壊の権化となり、世界を滅ぼし尽くす――それを防ぐための七大天使たちだった。
今回は、心強い助っ人もいる。
妖精王クー・フーリンである。
「失礼。遅れましたこと、お詫び申し上げる」
ゲイ・ボルグを背に、赤いマント姿で現れたのは一人のハイエルフだった。漆黒の部分鎧を身につけたティル・ナ・ノーグの支配者は、アドナイの前に、片膝をついた。
「良い。急な話で済まなかった。妖精界の王よ、ご助力願えるか?」
「もちろんです」
「皆も良く、集まってくれた。メタトロンを次代の神に据える儀式を成功させるのに、力を貸して欲しい!」
アドナイは長い白髪を持つ老人の姿で現れた。
すべての者がうなずくと、神はメタトロンへ最終意志確認を行う。
「メタトロンよ、引き返すなら今しかない。神の器は清濁併せ呑む盃――注ぎ始めれば、止めることは叶わぬ。熾天使に戻れぬやも知れぬ。わしとしては、サンダルフォンの二の舞いを踏ませたくないのじゃ」
「サンダルフォンは優し過ぎたゆえ、記憶の継承に耐えられなかった。それだけのこと。我が主アドナイが気を病む必要は、ございませぬ」
後で、書き足します。




