妖精姫のケーリュケイオン 7
心の中で快哉を叫ぶルー・フーリン。
それとは逆に、カイイリエルは滂沱の涙を流していた。決してリンドブルムを傷つけたいわけではない。赤竜は封印されていただけで、誰かを傷つけたわけではなかった。
『この俺を超える者は――カイイリエル、お前以外にはないだろうな』
そう、軍神メタトロンが語ったことがある。
銀色の、肩まで切り揃えられた髪と、鋼鉄の意志が宿る紅眼。漆黒の鎧に身を包み、背には大剣バハムートを負った天界最強の熾天使――それがメタトロンである。
認められていると感じたカイイリエルは、歓喜のあまり涙ぐむ。と同時にメタトロンを超えられるだろうかという疑念が湧いてくる。
次代の神の最有力候補である。
天界の至高神は、ヤハウェともエホバともアドナイとも呼ばれる。その時代時代で、呼び方も容姿も変わるのだ。その神候補を超える?
カイイリエルにとって、それは現実的なビジョンではなかった。
メタトロンもそうだが、神・アドナイの不在も天界では専らの噂だ。
天界で何が起きているのか。
なぜ、リンドブルムはティル・ナ・ノーグに封じなければならなかったのか。すべては謎だ。
下界に降りるカイイリエルに大天使長ミカエルが告げた真実がパズルのピースのひと欠片なのだろうか。
リンドブルムを大地に縫い止めていた、ケーリュケイオンの効力が切れ、反撃の隙を窺っていた邪竜の尾が、エディンとゲイ・ボルグとを巻きつけ勢いよく引き抜く。
勢いそのまま、ハイエルフの身体は宙を舞った。
次の刹那――
解き放たれたリンドブルムの尾が、高速の鞭と化し、エディンの胴を寸断した!
血しぶきが周囲に飛び散る中、エディンは絶命する間際、息子に向け微笑みながら何かを伝えようと唇を動かす。
「母上っ!」
超短めです。