妖気の波動 4
バターン!
と、戦士の間のドアが、ノックもされず勢いよく開け放たれた。
「大変です、陛下! ゲイ・ボルグが暴走しております。お早く、お逃げ下さい!」
飛び込んで来たのは、エルフの若者ユーディーだった。彼は、クー・フーリンの従者で、今年七ニ歳になる。エルフ族は、百歳未満はすべて若者となる。
ユーディーはズレたメガネを直し、妖精王の返答を待つ。
「ゲイ・ボルグが? そうか。息子の妖気に当てられたかな」
リアの姿はなかった。
関係者以外に、正体を見られるのは避けたいらしい。
そうこうしている内に、件のゲイ・ボルグが嵐と化して戦士の間に、突入する。
「ヒッ!」
怯えるユーディーの横をすり抜け、蒼いカーテンを切り刻み、花瓶を倒し、シャンデリアを落とす。
ガシャン、バシン、ズドン!
派手な音を立てて、調度品は見る影もなく切り刻まれた。
ついには、ゲイ・ボルグがクー・フーリンへと牙をむく。
妖精王の端正な顔を貫く寸前、クー・フーリンは右の、その二本のしなやかな指先で魔槍の穂先を挟み込み、御者のいなかった馬車は動きを止めたのだった。
「下がって良いよ、ユーディー。私からゲイ・ボルグに話しておこう」
と、満面の笑みでクー・フーリン。
納得できないながらもユーディーは下がる。妖精王スマイルが出た時は、逆らってはいけないのが、妖精宮の常識である。
戦士の間のドアを閉めたクー・フーリンは、愛おしそうにゲイ・ボルグを胸に抱いた。
「どうしたんだい? 息子の妖力に驚いて、暴走してしまったのかい?」
槍は答えない。
当然だ。
斧リサとは違い、インテリジェンス・ウエポンではないのだから。
妖精王の瞳から、一筋の涙が伝う。
「エディン……」
今は亡き、最愛の人の名を呼ぶ。
そのつぶやきは、風の中へ消え去った。




