冒険者ルーク 144
ロスアルザの見た目は、完璧な魔法少女、あるいは幼女だ。しかし、称号が魔女なのは中身が老いているからなのか。
あるいは、その強大な魔力量ゆえか。
俺に及ばずとも、彼女の魔力量はエルフの中でも最高クラスだ。
未だに魔力枯渇の症状が出ていないとなると、まだ魔力に余裕はあるらしい。
が、最初に俺を侮っていた顔はしていない。
今更ながらに、俺を脅威と判断したのだろう。
まぁ、俺とて公の場で女性を辱める真似などしたくない。
ただ、父上に言い寄って迷惑を掛けたロスアルザは許せない。
ファザコンですが、何か?
——魔力を練り上げる兆候を感じた。
目をつぶっていても分かる、無詠唱によるフレイムスピアだ。
この魔法は大気の成分から火の要素を取り出し、火炎の槍と化して放つ。
主にスピア系は中級の魔法だが、連射能力があり、使い勝手が良い。
先ほどのトライデントは中級を昇華させた上位版。魔法を融合させるなど、かなりの実力者でないと、まず無理だ。
しかし、俺では相手が悪かった。
フレイムスピアを無力化する術なら、とっくに編み出していたからだ。
「タスラム——」
俺が短く、魔法を詠唱する。
発動は無詠唱でも可能だが、口に出した方が魔法が固定しやすく、キャンセルされにくいという利点がある。
タスラムは俺のキュートな尻尾で、発動可能な極小の魔力弾だ。サイズはピンポン球くらいだが、効果は抜群だ。
「パキュン」
俺は肉球のある右手をピストルの形にし、ロスアルザの発動前のフレイムスピアに向け、撃った。
尻尾から放たれた魔力弾は、俺の肉球ピストルから発射されたように周囲には見えるだろう。
——火炎の槍に魔力が収束する前に、エネルギーを散らす。
術を無効化されたロスアルザは、さらに驚愕と恐怖を感じ始めていた。
「猫! 貴様、何をした!?」
「ここからは、俺のターンだ。まずは、そのフレイムスピアを無力化させてもらった」
「バカな、貴様如き猫がわらわの魔法をキャンセルするなど——」
そう、ロリババアは気づいてしまったのだ。マジックキャンセルは高等技術で、行使する相手は格上だと言う事実を。




