冒険者ルーク 142
大広間内にはバリアという名の結界が張り巡らされている。
万が一にも、金田一にも結界が決壊することはないようだ、多分。
さてさて、水の槍を作り出したロスアルザ。
ちょっと、拍子抜けだな。
いや、待てよ。
魔力の濃度が濃い。
なるほど、軽めの一撃と見せかけておいて致死量を越える魔力密度の高い攻撃を仕掛ける気か。
クロ確定。
奴は、俺を殺す気だ。
その証拠に、ニヤニヤとしたチェシャ猫みたいな笑顔を浮かべてやがる。
——ん、ロスアルザの奴、さらに二本の水の槍を作り出しやがった。
念には念を入れるつもりか。
宙に待機状態の三本のアクアスピア——
ふむ、魔力のコントロールは完璧なようだ。
さらに、ロリババアがその槍を一つに収束させた。
「受けてみよ、融合魔槍トライデント!」
変化した水の槍は、三又の矛へと姿を変えた。
周囲のギャラリーから歓声が上がる。
居並ぶ諸侯らは、このバトルの行く末に興味津々だ。
まぁ、妖精界には娯楽が少ないからな。
エルフのロリ部族長と、王太子の座を賭けた黒猫王子。
きっと、こんな対戦カードが見出しだろうな。
貴族の中には密かに、このバトルで賭けをする奴らも現れて来ている。
観客はざっと、五十名ほどだ。
エルフの部族長らは、ほとんどが公爵か侯爵、ダズリング辺境伯は侯爵とほぼ同じ地位に位置する。
諸侯のほとんどが男爵や子爵の下級貴族ばかりだ。
王を選出する権限を持つ、エルフの部族長らは選帝侯の称号を持っている。
俺が次代の妖精王になるには、彼らの承認が必要となる。
そもそも、ティル・ナ・ノーグの統治自体がその時々で、最も優れた人物が支配者となるシステムだ。
ゆえに、武力・知名度・美貌に優れた生きるカリスマである父上が、妖精王に最も相応しいという訳なのだが、なぜか俺に次の妖精王の白羽の矢が立った。
面倒くさがり屋の俺は、妖精王など辞退したかったのだが、内乱が多く続いた妖精界を私物化しないという部族長が一人も居ないゆえに、父上は俺を候補者に指名したのだった。
ロスアルザも候補には上がったのだが、父上を立場も忘れて口説く人物には、ティル・ナ・ノーグを任せられないというのが本音だ。
父上はそれこそ、猫の手も借りたかったのだろうな。
ご指名ありがとうございます、ルー子です。
って、夜の街で名刺交換するキャバ嬢か俺は。
いかん、いかん。
今は戦闘中だと言うのに。
トライデント——確か、海神が使う三又の矛の名か。
トリアイナとも呼ぶらしい。
妖精界では、ポセイドンに該当する神がリルだ。
そのリルの矛が俺目掛け、飛んで来る。
単なる防御魔法のイージスでは、心許ない。
俺は、神聖防御魔法パラデインを発動した。
ただし、手の平サイズで。
違った。
肉球サイズだった。




