冒険者ルーク 136
ペ〜ンチ。
違った。
ペンチ——違った。これは、工具の名だった。
ピンチだ！
早速、俺はエンリュミオンソードで修羅猿に斬りつけたのだが、面白いくらいに弾かれてしまう。
アスラエイプを皮膚が頑丈すぎて、攻撃が通らない。切り傷一つすら、つけられない。
ヤバいよ、ヤバいよ！
俺は人間界のゲートウェイな川の芸人みたく、焦っていた。
クソッ、風向きが悪いな——って、ダンジョンに風は吹かないのだがな。
とりあえず、修羅猿のスキルに斬撃を無効化するものはついていないので、少しずつ体力を削って行かなければならないだろう。
気を取り直した俺は、再度アスラエイプの手首に狙いをつけ、袈裟斬りを放つ。
が、またしてもカインという音と共に弾かれる。
硬っ！
バリカタかよって、ラーメンの話ではなかったな。
やはり、俺の危惧した通り即席のインスタントソードでは、奴に傷一つ負わすことすら難しい。
さらに、修羅猿はランペイジ状態で暴れまくっている。
ナチュラル・バーサーカーめ。
——ふいに、世界が止まった。
ヤバい、これは呪いの麻痺の兆候だ。よりによって、こんな時に！
アスラエイプは野生の勘で、俺の状態異常を感じ取り、右上腕が拳で振り下ろしのパンチをお見舞いした。
俺はとっさに防御魔法のイージスを展開するが、魔法が中途半端でダメージを消せずに壁際まで吹き飛ばされた。
くそう、父上にもぶたれたことないのに。
こんなことなら、麻痺状態に陥る前に回復魔法を常時発動させるべきだった。
修羅猿にぶん殴られて、イヤな過去を思い出しちまった。
——それは、オーベロン城の大広間での出来事。
王の正当な後継者である王太子の選定。
エルフの部族長らや、多数の臣下が居る前で俺は吊し上げられていた。
「いやはや、まったく問題になりませんな。ケット・シーの呪いを受けた者が、妖精王の正当な後継者とは！」
