妖魔の森の赤帽子 6
(こいつ、いつのまに俺の背後に回り込んだ! 地面を駆けた形跡がないとすると、あり得べからず高さの跳躍をし、音すら立てずに背後に着地したことになる!)
黒猫の全身に、いやな汗が湧いた。
ケスリーと京子は、動けずにいる。当然だ。一頭は連絡要員で、もう片方は単なる現役女子高生なのだから。
刃を猫の喉元に突きつけながら、三白眼の邪妖精はルーをジロジロと観察する。
(今夜は猫鍋だな)
よだれがレッドキャップから垂れる。
自身が食材の対象になっていると気づかない黒猫は、現状を打破する一手を模索していた。
師匠たち以外で、これほどの強敵に出会ったことはない。しかも、相手はあのレッドキャップだ。剣の一振りで十数体の敵が瞬殺される雑魚の中の雑魚に、今、ルーは命を握られている。
初めての経験だった。
人質童貞を奪われた!
いや、猫質か?
そんな、とりとめのないことを考え出す黒猫氏の左耳に、レッドキャップはピアスを見つけた。
「ん? オメー、ケット・シーのくせにピアスしてんのけ?」
妖精がピアスをする事例は少ない。
それこそ、クー・フーリンくらいだろう。
獣人系の妖精で、ピアスをしているのをグフは初めて見た。
まだまだ、ファッションの自由という概念は、妖精界では浸透していないようだ。
「俺は、オシャレでね。あんたと違ってな」
黒猫が赤帽子を挑発する。
妖精騎士団に死傷者がいないという報告が真実なら、このレッドキャップは案外、平和主義なのかも知れない。
残虐な性質のレッドキャップなら、ルーは即座に殺されているはずだ。
リサーチに自身の命をベットする必要はないが、何となく黒猫は無事だろうという確信があった。
騎士団を退却させた強さと、黒猫に冷や汗を掻かせる技量があれば、手加減をしているという解答に辿り着く。
「むっかぁ! オラだって、オシャレだぞ。服なんて三月に一回は洗ってるだぞ! なぁ、リサ――オメーからも、何か言ってやってくれよ!」
いや、三ヶ月に一回って――もう少し、洗えよとツッコミたい黒猫。
謎の女を示唆するグフ。
(一人では、なかったのか!?)
周囲に人の気配はない。
姿も見当たらない。
もしや、透明化のスキルか!
謎の女、リサの正体に黒猫が気づくのは、数秒後だった。
「あ、あ、あ、あ、アンビリーバボー!? グフのアンポンタン! アンタ、また鼻クソほじった手で、アタシに触れたわねっ!!」
何と、リサの正体はバトルアックスだった。
長年、使った器物には魂が宿り、付喪神という存在になるが、これは――
(まさか、インテリジェンス・ウエポンかっ!?)
知性ある武器であり、生きている武器。人と同じ意思を持つ存在――武器が斧なので、インテリジェンス・アックスとでも呼ぶべきか。
「あちゃー、メンゴ、メンゴ。うっかりしてただ。リサ、許してけろ?」
仕事疲れで泥のように寝てました。
斧リサですが、ボサノバは歌わないようです(笑)
大分、主要キャラが出揃いました。
その内、グフとリサの正体もわかるでしょう。
ではでは(ΦωΦ)ニヤリ




