冒険者ルーク 85
魔界の最下層には、暗黒界と呼ぶ古代の魔神が跋扈する異界が存在する。
暗黒界は、三人の堕天使によって創造された。
座天使だったが、恋人を同胞によって殺され堕天したアルマロス。
人間との間にできたネフィリムの息子を、天使の軍団に殺害された山羊角の悪魔アザゼル。
友人が堕天し、能天使の部隊に粛正されたことを皮切りに堕天した怠惰な剣帝アリオッチ。
——天使は、清廉潔白な存在ではない。
神の正義を体現するために、堕天使や悪魔、ネフィリム、そして人間を殺すことにいささかのためらいもない。
神の教義に不都合な存在があれば、排除する。
堕天までのプロセスに、同情の余地はない。障害は、斬り捨てれば良いだけの話だ。
残酷な天使の凶行を止めようとした同胞をも排除する。天使の大半の思考は、単純かつ残虐であった。
——そんな同胞らから離れ、神の正義に疑問を抱き、堕天した天使らが創り上げたのが暗黒界クリフォトである。
魔界は、そのクリフォトを内包するかのように堕天使の王ルシファーが自身の十二枚の羽根と、かつての同胞の遺体からエネルギーを得て、創られた。
創世記には、クリフォトの悪魔とルシファー率いる堕天使軍との戦いもあったが現在では両者は不干渉を貫いている。
邪神バフォメットは、そんな混乱の最中に暗黒界にスパイとして潜り込んだ。
旧支配者の尖兵として送り込まれた彼だったが、もう一人、邪神の力を感じる大悪魔が存在した。
それが、両性具有の魔界の大公アスタロトであった。




