冒険者ルーク 63
俺が七つ目の巣を探索していると、土造りの部屋の一室から、少女らしき絶叫が轟いた。
急いで、その場に駆けつけると一匹のゴブリンが、生きたままの少女の右腕を貪っているところだった。
「助け……て……」
涙と泥と汗と血が少女を、小汚く見せていた。激痛で意識が朦朧としているのか、目の焦点が合っていない。
俺は怒りのあまり、ゴブリンの頭部を横一文字に薙ぎ、心臓をリジルで刺し貫いた。
少女に眠りの魔法を掛け、その右腕を完全に切り飛ばす。
「キアン!」
俺は最上級回復魔法のキアンを詠唱する。
この魔法は四肢欠損をも再生する。彼女の右腕を斬り飛ばしたのは、中途半端な再生では、元の綺麗な状態にならないと判断したからだ。
眠りの魔法の他に、麻酔の魔法も重ねがけで痛覚を感じることはないはずだ。
右腕の再生を見届けると、クリーンの魔法で全体を綺麗にしてやる。
鑑定を施すと、彼女はまだ十二歳で——最悪なことに妊娠していた。
——俺は、神じゃないし、運命をいたずらにもて遊ぶつもりはない。
だが、彼女のこれからの人生を思うと、救わずにはいられなかった。
ゴブリンが孕ませたであろう赤子を消去し、少女の記憶を書き換える。
全身の裂傷を治し、綺麗な身体にする。
分かってる。
これは、運命の神への越権行為だ。
だが、関わってしまった以上、見捨てることは出来ない。
神の領分を侵すにしても、救わない神に俺は存在意義を見出せない。
俺の父上ならば、まずこの状況下で見捨てることはしない。
ならば、息子である俺は父の背中を追いかけるのみ。
色々やらかしたかも知れないが、後悔はしていない。
一人の少女の人生が守れたのなら、それで良い。
サルヴェーション——救済されるのに、お金は要らない。
確か、人間界のロック歌手が、そう歌っていたな。
そう、彼女は救済されなければいけない。
少女は、まだ子供なのだから。




