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冒険者ルーク 12
黒山羊の姿を取る、邪神シュブ=ニグラトの周囲には灰色の光景が広がっていた。
山の中腹にある拓けた場所なのだが、大地や樹々は死に絶え、灰色の空間だけがあった。それは、彼女に生命エネルギーを吸い取られた抜け殻であったのだ。
今、彼女の仔らは空腹だった。
周囲には怯えたケルベロスの群れが、彼女の勘気に触れぬよう、身を縮こまらせている。
その集団の中の一匹に目を付けた黒山羊は、額の邪眼を使って、ケルベロスを近くへと誘導する。
邪眼に魅入られたケルベロスは、自身の意志に関係なく、シュブ=ニグラトの元へ歩み寄って行く。
黒山羊の身体から、無数の禍々しき邪神の幼生が這い出し、ケルベロスへと襲い掛かる!
その姿は単眼の黒山羊に赤い牙を持つ、手足のない、おぞましい姿だった。
邪神の幼生、へゼルゴートは血に狂うピラニアのようにケルベロスを骨だけの存在へと変貌させた。
シュブ=ニグラトは仔らの満腹を確認すると、慄えるケルベロスらを見て、満足そうに眠りについた。




