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弓聖の救世主 20
イルダは肩で息をしている。
そう、正に地獄の特訓中なのだ。
季節は春に相当するようだが、イルダは袖なしのミントグリーンのチュニックに蒼いベルトという出で立ちである。
額にはサークレットをし、足元は短いブーツを履いていた。背には矢筒があり、弓はフェイルノートという、ユグドラシルの枝から削り出された一品である。
今、イルダは空間認識力を磨くべく、千本ノックならぬ千射の真っ最中であった。
いつ、いかなる場面でも最適なフォームで矢を放てるよう位置取りすることをバルバトス改め、バルトスに強いられていた。
念のために偽名を使うバルバトスだが、あまり隠せているかは微妙なところだ。
狩人の悪魔は、イルダには特殊なスキルを持つ人間がティル・ナ・ノーグに流されて来たと説明した。
ようやく千射目を終えたエルフの少女が、地面に寝転がる。
バルバトスは回復魔法を即座に、イルダに掛ける。
「次は三分後に、また千射だ」
「師匠の、鬼! 悪魔!」
バルバトスはニヤリと笑う。
(まぁ、悪魔なのだがな)




