弓聖の救世主 14
バルバトスは矢を放った。
が、それはマンティコアにではなく、焚き火に向けてだった。
火の中に入り込んだ矢から、突如として火柱が上がる。
バルバトスはまず、戦場を戦いやすいようカスタマイズした。暗闇での戦闘を避けるため、燃焼促進剤をつけた布を矢じりに巻き、火柱によって、明るさを確保したのだった。
イチイバルをすかさず、亜空間にしまったバルバトスは新たな弓、ガーンディーヴァを取り出す。
この弓は取り回しが良く、丈夫で壊れにくい。何より、連射に長けている。バルバトスは臨機応変に複数の弓を使い分けていた。
マンティコアの巨体が跳躍し、バルバトスの頭上に迫る。
狩人はイルダを横手に突き飛ばし、有翼の赤獅子に四連射を射た。
機動力を削ぐために、四枚の翼を狙うバルバトス。
が、四本の矢はすべて、マンティコアの発動させた風魔法によって、地面へと落ちてゆく。
「ほう、風魔法で私の放った矢を相殺したか。そうこなくてはな」
赤獅子の右爪が狩人の悪魔に炸裂する刹那――
ガーンディーヴァを盾代わりに、バルバトスは爪撃を受け止める。
直後、懐に忍ばせておいたクナイを投げ、マンティコアの眼球を狙う。
クナイは忍者が使う暗器の一つで、投げナイフ型の手裏剣のようなものだ。これはバルバトスの隠し玉の一つであり、初見でかわすことは、不可能かと思われた。
野生の本能で、マンティコアは空中に飛び上がり、クナイを回避する。
「チッ!」
舌打ちするバルバトス。
イルダは、この一瞬の攻防に見入っている。マンティコアはエルフ族が五人掛かりで、やっと討伐できるようなモンスターだ。しかも、通常とは異なる進化を遂げた特殊個体。それをソロで討伐するという。
イルダにしてみれば、無謀な賭けでしかないが、やれるのならば見てみたい。
そして、討伐した暁には、正式に弟子として認めてもらう。
まずは、目の前のモンスターの脅威を、バルバトスに取り除いてもらわなくては。
そう、未来の弓聖は考えていた。




