ゲイ・ボルグ 5
「アッシもいるんでやすけどねぇ……」
ボソリと黒猫イルサンがつぶやく。
「わしの助力を得たいとか」
猫の王はアウトオブ眼中なのか、スルーされた。ケット・シーは小柄で、大人サイズでも小学校低学年並みの背丈なので、マナナンは気づかないのかも知れなかった。
「是非とも」
「だが、断わる!」
「……理由をお聞きしても」
「わしに何のメリットも、シャンプーもリンスもない」
マナナンは人間界で仕入れた、洗髪剤の話をしていた。意味不明な言動に戸惑う、妖精王と黒猫。気を取り直して、クー・フーリンは交渉を試みる。
「――では、マナナン様に妖精の治癒魔法を教えるというのは、いかがでしょう?」
大抵の魔法使いという人種は、未知の魔法を習得――いや、コレクションすることを喜びとしている。全属性魔法の使い手たるマジック・マスターなら、この交渉に乗ってくるだろう。
「オーケー!」
軽いノリで、マナナンは了承した。
クー・フーリンの見立て通り、マナナンはあらゆる魔法を習得することを、ライフワークとしていたのだった。
胸を撫で下ろす、一人と一匹。
「その前に、わしと模擬戦をしてもらう。リヴァイアサンは海の魔獣の中でも強敵の部類に入るゆえ、対処できる実力があるかを見極めさせてもらおう」
リヴァイアサンと戦闘となれば、まずは足場と頑丈な船の確保が必須であった。
クー・フーリンは魔槍の使い手だが、それは地上戦での話である。
海上では、妖精王の槍技は通用するのか見ものだと、マナナン・マクリールは思った。




