幕間――黒猫とザントマン
ある日の妖精騎士団寮――
「何、サミア爺が騎士団を辞めたいだと!?」
妖精騎士団は、ルー・フーリンが創設した。
かつては、母であるエディン直属の騎士団であったが、彼女の死後、解体された。
黒猫は何事かあった時のために、手足のように動く忠実な部下たちを欲した。
が、集まった妖精たちをは曲者揃いで、騎士団設立当初は、有能なルー・フーリンでさえ苦労した。
設立当初からの古参メンバーであるザントマンのサミア爺が、騎士団を抜けるという。
確かに、ザントマンは攻撃力に秀でているわけではない。布袋につめた眠り砂を敵に吹きかけ、目くらましをメインとする支援妖精だった。
副団長のレイナルも、サミア爺の辞職を訊いた時、納得する他なかった。
「そーなんすよ、団長。まぁ、しゃーないっすよね?」
と、軽い調子のレイナル。
「で、レイナル――お前は引き留めなかったのか?」
「引き留められないっすよ。だって、攻撃手段が目くらましだけなんすよ?」
黒猫は、大きくため息をつくと、説教モードに入った。
「だから、どうした。ザントマンが加入した時点で、支援がメインなのは当たり前だろう? ならば、サミア爺が活躍できるよう戦場を展開するのは上官である、お前の役目ではないか! サミア爺の能力を底上げする努力すら、してないお前は上官失格だ!」
確かに猫団長が言ってるのは正論だ。
だが、言うは易く行うは難しなのだ。
(ちぇっ! 言うのは簡単だけど、実行するのはムズいって!)
レイナルが反論しようとした時――
「お待ち下され、ルーさま。レイナルどのの言う通りですじゃ!」
当の妖精ザントマンから、待ったがかかった。
「サミア爺――聞いていたのか?」
黒猫がザントマンに気遣わし気な視線を向けた。




