妖精姫のケーリュケイオン 4
ギャオオオオオオン!!!
天地を震わす咆哮がリンドブルムから放たれる。
威圧を伴った竜鳴は、恐怖に耐性のない者ならば、身体が硬直する状態異常を起こしてしまうだろう。
全長二十メートルはあろうかという巨軀が、おもむろに動き出す。
牛にも似た一対の、天を威嚇するかのような角と、丸太が如き四肢を有しているが、翼は生えていない。
紳士一同は赤竜を観察し、弱点を見極めようとするが、蛇に睨まれた蛙の如く動けない。
本能的な恐怖が彼らを支配していた。
が、先にそこから抜け出す者がいた。
カイイリエルである。
裁天使は自身の舌を噛み、正気を保っていた。
彼の放つ必殺技は上空から仕掛けるので、その場から離れる。
(上空に位置取りして、何を仕掛ける気だ? 先ほどから三種類のエネルギー体を圧縮させているようだが!?)
負けじと、黒猫王子も気合いを入れる。
ルー・フーリンは次期、妖精王なのだが古参の妖精部族には認められていない。フォモール族を始めとする力ある族長たちは、黒猫王子が下級妖精であるケット・シーであることが気に食わないのだった。
ルー・フーリンにしてみれば、瑣末なことでしかないが、父であるクー・フーリンを失望させたくないがゆえに、王の正統な後継者たる王太子の地位を得るために行動している。
黒猫王子は重度のファザコンなのだった。
リンドブルムのバインドボイスから立ち直った面々は、己れの仕事に徹するよう動き出す。
周囲の魔力と己れの妖力を一点に収束させ、ゲイ・ボルグを一振りしたエディンは、一同に声を掛ける。
「ぬかるなよ。敵はリンドブルム――最強の防御力を誇る邪竜だ!」
ハイエルフが踊るように魔槍を振るい、リンドブルムの尾に深々とゲイ・ボルグを突き立てた!
「ケーリュケイオン!!」
『王族な猫』以下、『王猫』と略します。
王猫こぼれ話
さて、カイイリエルが出てきますが、意味は『軍隊』らしいです。
王猫的には裁きの鉄槌を下す天使ですが、裁天使という役職は王猫の中だけの話です。
通常の天使の位階では、天使、大天使、主天使、権天使、力天使、座天使、熾天使などが存在します。
カイイリエルはミカエルと同じ太陽の光から創造された天使で、紅炎の天使です。
天界の要職に就く天使は、いずれも天体などの高エネルギー体から創造されています。